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やわらかくなるのは自分。あなただけのTrue Colorで世界とつながろう -乙武 洋匡さん× ryuchellさん対談-

平原 礼奈 │ 2022.04.22

※この記事は、mazecoze研究所が「True Colors CARAVAN」広報チームとして企画制作した“マガジン”を、当メディアにも転載するものです。True Colors CARAVANの開催と連動して随時連載いたします。

True Colors Festivalアンバサダー対談

2019年よりTrue Colors Festival(トゥルーカラーズ フェスティバル)のアンバサダーとして活動を推進する乙武洋匡さんとryuchell(りゅうちぇる)さん。
お二人に、フェスティバルが織りなす多様な物語にふれて得た気づきや、ダイバーシティとの向き合い方、未来への思いを語っていただきました。

乙武洋匡(おとたけ ひろただ)さん

作家
1976 年、東京都出身。先天性四肢欠損により、幼少時より電動車椅子にて生活。大学在学中に著した『五体不満足』が600 万部を超すベストセラーに。海外でも翻訳される。大学卒業後はスポーツライターとして活躍した後、小学校教師として教育活動に尽力する。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している。
乙武洋匡オフィシャルサイト http://ototake.com/

ryuchell(りゅうちぇる)さん

モデル・タレント・アーティスト
タレント・株式会社比嘉企画代表取締役。1995年生まれ、沖縄県出身。個性的なファッションと強烈なキャラクターで注目を集め、パートナーのpecoと多数のバラエティ番組に出演。pecoと入籍し、一児の父となった現在は育児やSDGs・報道番組への出演など活動の幅を広げ、2020年よりNHK「高校講座・家庭総合」のMCを務める。自身SNSでの"自己肯定感"に関する発信がたびたび話題となり、2021年に初の著書となる「こんな世の中で生きていくしかないなら」を出版。現在は女性誌等で4本の連載を持つ。
ryuchellオフィシャルサイト https://higakikaku.com/

一人ひとりの、その時々の“True”

-パフォーミングアーツを通じて、障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストと観客がまぜこぜになって楽しむ「True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭」(以下TCF)のアンバサダーとしてご活動されてきた中で、印象に残っていることをお聞かせください。

乙武さん
ミュージカル「ホンク!〜みにくいアヒルの子〜」を観たとき、舞台の上に多種多様な人たちがごちゃまぜになって輝く姿があって、そこには自分がこれまで思ってきたダイバーシティの構図よりも、立体的で魅力的なあり方が描かれていました。
私自身、身体障害があり車椅子に乗るマイノリティとして生きてきた中で、障害が制限にならずにだれもが力を発揮できる社会にしたいと願って活動を続けてきたのですが、どうしてもマイノリティとマジョリティという捉え方をしていたことに気づかされたんです。とても新鮮な刺激でした。

※「ホンク!〜みにくいアヒルの子〜」:True Colors MUSICAL。2020年2月公演
アメリカで芸術活動を望む障害者の就労・自立を促してきた劇団ファマリーによるミュージカル・コメディ。

〈Photo:Ryohei Tomita / 撮影:冨田了平〉

ryuchellさん
僕は「WEAR YOUR True Colorsプロジェクト」でコラボTシャツを作ったことが思い出深いですね。"Believe in your TRUE COLOR"というコンセプトに、みんなそれぞれの色を認めようというメッセージを込めました。
僕、ふだんから色という言葉をよく使うんです。派手なことが個性というふうに見えるかもしれないけれど、白でも黒でもカラフルでも、あなただけのいろんな色があっていいんだよって。

WEAR YOUR True Colors プロジェクト:ダイバーシティを体現するアーティスト、デザイナー、ミュージシャンなどが、メッセージをTシャツにデザインするプロジェクト。

-ryuchellさんは、ご自身のオフィシャルサイトでも「自分の色を取り戻そう」というメッセージを発信されています。

ryuchellさん
“取り戻そう”という部分を、すごく意識しています。僕のことをオンリーワンだと感じてくれたからこそテレビに出られるようになったと思うんですけど、段々と変に賢くなったり、こう見られたほうがおいしいかなとか、仮面をかぶっていく瞬間がありました。それを成長だと割り切っていたけれど、「あれ、ほんとの僕、どこだっけ? 誰でもない自分があったからこそのいまなのに」って。だからこそ、取り戻す。
誰にとっても、仕事でも恋愛でも、そんな場面があると思うんです。成長はしていくんだけど、自分の色を取り戻していく。見つけてもいいと思います。今まで自分はこの色だと思ってきたけど、あれ、こっちの方が好きかもしれないとか。決めつけず、直感を信じて、その時の自分を感じることが大切だと思います。

乙武さん
ryuchellのメッセージは、TCFのTの部分、“True” の意味を本質的に語ってくれていると思うんです。私たちの社会って、すぐに「あなたはこのカテゴリーね」「きみはここだね」って決めたがりますよね。あぁ、私はここなんだって無理矢理押し込められて、でも本当の自分と少しずつズレが生じてきて、窮屈さや苦しさにつながっていく。あなたでいいんだよ、というのを、ryuchellは「自分の色を取り戻そう」と伝えていて、フェスティバルでは“True”と表現しているのだと感じます。

- TCFの発案者であるオードリー・ペレラさんも、True Colorsには“トゥルーキャラクター:その人らしさ”という意味合いがあるとおっしゃっていました。一人ひとりの中にいる自分を隠さずポジティブに誇りを持って、というメッセージも込められたそうです。

オードリー・ペレラ:True Colors Festivalエグゼクティブ・プロデューサー。シンガポールを拠点にインディペンデントのフェスティバル・プロデユーサーとして活動。

多様性をやわらかく認めることで、自分にも寄り添える

-ダイバーシティというキーワードに対して、お二人はどのような向き合い方や捉え方をされていますか?

ryuchellさん
僕は小さい時からかわいいものやメイクが大好きで、周りからは男の子なのに個性的だねって言われてきました。でも自分の中では、いまでも自分らしさについて、まだそれが何なのかわかっていない時もあります。自分のことを愛せない夜もあります。僕って全然完成していないし強くもないんです。
だけど、これをしていたらなんとなく落ち着くなとか、これが好きだなっていうのはわかってきたし、前は好きじゃなかったけど26歳の今は好きというような変化にも気づいています。
多様性で大事なのは、強要しないことじゃないかな。人との関係でも、自分はこう思うからあなたもわかって! ではなくて、なるほどあなたはそういう意見なのねって、まずは認める姿勢を見せること。自分自身に対しても、これは嫌だ! 違う! ではなくて、嫌いなこともいつか好きになるかもしれないという目でものごとを見ること。相手にも自分にもどこまでやわらかくなれるかだと思うんです。

乙武さん
ダイバーシティという言葉が世の中に溢れてきたここ数年で、多様性を重視する風潮が高まりました。大切なときだからこそ、個々のバランスを間違えないようにしないと、とも思っています。
私はダイバーシティのバランスを考えるときに、“社会的にダイバーシティが実現されているか”ということと、“一人ひとりの人生が生きやすくなっているか”という2つの見方があると捉えています。本質的には“一人ひとりが生きやすくなるために、社会のダイバーシティが実現される”ことこそ大事だと思うんです。でもいま、社会的なダイバーシティを実現することが独り歩きして目的化していないだろうか、と感じる場面がよくあって。

-そう感じるのはどのような場面でしょうか?

乙武さん
たとえば、国際的に有名な映画賞では、ノミネートの条件として多様性の項目が設置されました。映画の内容はもちろん、製作現場にも多様な属性の人を積極的に起用することを条件とするものです。でも、さまざまな人種やセクシュアリティ、障害のある人が均一にいることが目的ではないですよね。大事なのは、多様な人たちもその能力を発揮して質のいい作品を生み出す現場にきちんと携われるようになっていること、だと思うんです。
身近なところでは、東京を歩いていると、街ゆく人の服装の季節感が統一されていると思いませんか? そこからちょっと外れていると、暑苦しいよとか寒々しいって言われちゃう。私が数年前にロンドンやニューヨークを放浪して感じたのは、タンクトップ一枚の人の横で革ジャンの人が歩いているように、人々の格好が多様だということでした。同調圧力によって本来自分が快適に思うよりも厚着や薄着をしなくちゃいけないのだとしたら、もうちょっと自分に寄ったチョイスができるようになることも、私はダイバーシティの実現だと思います。

無関心の壁を越えるエンターテインメントの力

-オードリーさんは、「パフォーミングアーツはアートの中でダイバーシティを考える上で一番パワフルなものだ」ともおっしゃっていました。多様性とはこういうものだと説明する必要すらなく、それ自体が多様性になっていると。

乙武さん
まじめに、ストレートにメッセージを発信していくことももちろん大事ですが、なかなか届きにくい層に対しては、エンターテインメントやパフォーミングアーツは大きな力になりますよね。ダイバーシティにはまるで興味がなかったけど、ダンスが好きとかミュージカルが好き、アートが好きだという人がTrue Colors Festivalのプログラムを体感してくれた結果、「あ、ダイバーシティって素敵」とか、「いろんな人がまざり合うって新しい価値観を与えてくれるんだ」というような気づきが生まれてくることに意味があると思います。

ryuchellさん
TCFは当日がピークというよりは、じわじわ系フェスティバルですよね。少しずつ影響の輪を拡げていくのが似合っていると思います。とりあえず入ってみて、そのあとに知るものや意識できることがあったらいいなと。だからこそ、その場に行きたくなるような、ハッピーな仕掛けをその前の段階からたくさんつくっていくことも大事じゃないかな。

乙武さん
マイノリティの問題って基本的にどうでもよかったり、見てみぬふりができてしまったりするんですよね。あえて関心を持つ必要がないことに、どう補助線を引いて目を向けてもらえるか。そこにある価値にふれてもらうためには、あの手この手を使わないと。だからこそきっかけづくりが大事で、こうあるべきなんて制限をかけずに手を替え品を替え、関心を寄せてもらう試行錯誤を続けることが大切だと思います。

誰もが自分を表現して生きられる豊かな社会へ

-日本で2019年9月にスタートしたTCFもまた、コロナの影響の中で試行錯誤を繰り返し歩んできたフェスティバルです。

乙武さん
ここでの生のふれあい、場の空気感には、気づきを育む場面が多く設けられていました。オンラインでの実施によって気づけたこともたくさんあったと思いますが、多様な機会が制限されてしまったのが本当に悔しいですね。壁を乗り越えてつながることの大切さをだれもが実感する時代になったいまこそ、これからもTCFをたくさんの人に味わってもらいたいと思います。

-乙武さんからこれからに向けたお話がありましたが、最後にお二人の未来への展望や、次の世代の人たちに伝えたい思いをぜひお聞かせください。

ryuchellさん
こういう活動をしていて申し訳ないのですけど、僕、世の中に期待していないんです(笑)でも、だれかが僕のことをロールモデルにしてくれて、こんな人がいてもいいんだ、こういうふうに生きてても楽しいんだ、こんなパパがいてもいいんだって、なんとなく生きるきっかけにしてくれる限り、僕はぜったいにこの仕事をやめません。僕の立場では世の中を変えられるとは今はまだ思えていないけれど、10年20年と時が経ってもその時の自分を表現していくことがいい流れをつくっていって、いつしかそれが文化になると信じています。常識を少しずつかわいい形にしていくことはできるんじゃないかな。

乙武さん
個人的には、世代交代を願っています。障害を社会としてどう包摂したらいいのか、どう対応していけばいいのかって、昔から語られてきているもののいまだ解決していないことがたくさんありますよね。その課題への意見が一番目立ってしまう存在が、20年変わらず私のままというのは、これはこれで多様性がないと思うんです。私の意見はさまざまな意見の一つでしかなくて、「乙武さんはそう言うけど私はこう思う」という声がもっと世の中に聞こえてくるように、若い人たちが発信しやすい土壌を開拓していくのがこれからの私の役目かな。
とはいえ、まだまだ私にもやらなくてはいけないことがあって。先日ある番組で、半袖で腕が見える状態で食事をする収録に臨んだんですね。そうしたら放送直後からSNSに結構な数のクレームが書き込まれて。要は、あんまり見せないでほしいとか、乙武さんは長袖を着るべきだといった類のコメントでした。令和3年でもそうなのかって衝撃的で。その根っこには、人間のあるべき型は手足がある形であり、そうでない人は他者に配慮して隠しておくべきだっていう考え方があると思うんです。それは私が目指してきたダイバーシティの対極にあるものです。それで、解決策は何なのかというと、言い争うことではなくて、きっとこの形で出続けて慣れてもらうしかないと思うんですよね。だから、若手に頑張ってもらって世代交代をはかりつつ、私自身が表舞台に立ち続けることも必要なのかなって最近あらためて実感しています。

ryuchellさん
そのお話、めちゃくちゃ衝撃すぎる……。

乙武さん
でもこれって、ryuchellがテレビに出だしたときに「男のくせにメイクする奴って何なの」っていう声があったと思うんだけど、根は一緒だと思うのね。男はこうあるべきとか、人の身体はこうあるべきとか、もっといえば障害者はこうあるべきとか。私はそれに反してメディアに出て自分の意見を発信してきたので、生意気だって叩かれてもきました。でもね、次の世代の人が自分の意見を発信しやすいように、私が叩かれておくのは大事かなって思っています。

ryuchellさん
乙武さんの世代の人が、若い世代の人たちの意見を聞こうと寄り添ってくれているのは、本当にすごくうれしいことです。いまはZ世代なんて言われていますけど、コロナ禍でいろんな思いもあって、僕は子育てもしているし、だからこそ社会の気になるニュースやいろんな気づきが増えてきています。
こんな時代に生きているからこそ、新しい自分の人生をつくりたい、新しい日本をつくりたいって思っていても、大人たちの成功例をあまり見たことがない世代でもあるので、じゃあどうしたら変わるわけ? という本音に揉まれて身動きがとれない人もいると思うんです。そんなときに違う世代の人が寄り添ってくれたり、自分たちの声や力を知りたいと後押ししてくれるのはうれしいし、もっと真剣に日本や自分たちの将来のことを考えようって、これからどんどんそういう動きになってくるといいなと思います。

乙武さん
いま、TCFで、お子さんに向けた探究型学習の企画をつくっています。遠回りに思えるかもしれないけれど、着実にダイバーシティの実現につながっていく教育のプロジェクトを立ち上げませんか、と提案させていただいて、素晴らしい専門家の方々と実現に向けて動いているところです。
子どものうちからいろんな人がいることを知り、それを否定せず、誰もが自分らしさを大切に生きていける社会。その豊かさに気づくきっかけを持ってもらいたいんです。ダイバーシティが大事なんだと押し付けるのではなくて、様々な切り口を通じて自ら道を拓いてもらえるように、私自身わくわくしながらこの取り組みを続けています。


それぞれの視点から世界と関わり、ダイバーシティのメッセージを発信し続ける乙武さんとryuchellさん。乙武さんの新たな探究プロジェクトも、お二人のさらなるご活躍も、“誰もが自分の色を輝かせて生きるやさしい世界”へとつながっていくのだと感じました。素敵なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!

取材・執筆:平原礼奈(True Colors CARAVAN広報チーム)
撮影:鈴江 真也
取材日:2021年10月25日

True Colors Festival
- 超ダイバーシティ芸術祭 - とは

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。
障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。
そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。
居心地のいい社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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