English

福祉と食とふるさと納税をかけ合わせたPRe Nipponの「うまふく」

平原 礼奈 │ 2020.03.05

持続可能なソーシャルデザインを考える

こんにちは。mazecoze研究所のひらばるです。 前編では、持続可能なソーシャルデザインについて、プレニッポンの活動を通して考えてきました。 ここからは、いま私たちが進めている「うまふく」という取り組みについて、プレニッポンメンバーの殿岡さんにバトンタッチして紹介してもらいたいと思います!  

私がプレニッポンに参画した理由

初めまして、プレニッポンの殿岡と申します。 プレニッポンに参画してから、2年くらいでしょうか。共同代表の松山氏と昔の同僚で、彼からお誘いを受けた形になります。 私自身、以前に福祉関係の仕事をしていたことはないのですが、なんとなく必然的な参画だったのかなぁ、と思っています。 というのも、
  • キリスト教系の学校に行っていたので、ボランティアが身近だったこと
  • アメリカに住んでいたことがあり、ダイバーシティが日本よりも進んでいたことを目の当たりにしていたこと
  • 母が晩年障害者になったということで、「障害をもつ」ということが一気に身近になったこと
  特に、母が障害者になったことは結構大きくて。 もちろん、晩年からの障害者なので、どちらかというと「老人介護」に近かったとは思うのですが、私自身がまだ30代前半だったということもあり、知識も覚悟も足りず、一から制度や仕組みなどを調べたことにより、福祉そのものに興味を持つようになりました。 こういう経緯を書くと、「おお、ノブレス・オブリージュですか!」なんて思われがちなのですけど、全然違くって。普段は金融関係で働いていますし、お金儲けや投資大好きで、どちらかと言うと「そのまま行くと、地獄に行くよね」的な感じの日々でございます。 だけど、プレニッポンに携わることで、「もしかしたら、天国に行けるんじゃないか」とたくらんでいる腹黒い感じです(笑)「天国に行けるのはポイント制じゃないよ!」って突っ込まれますよね。でも、こういう感覚でどんどん福祉やボランティアに参加してもらっても良いと思うんですよね。世の中、どんどん難しくなっちゃっていますけど、もっとシンプルでいいんじゃないかな、と。 話を戻しますが、なぜプレニッポンか、と言うと。 世の中にはいっぱい福祉関係のWEBサイトやボランティアがありますし、たまに「ちょっと手伝ってもらえませんか?」なんて声をかけていただくこともあったのですが、なんでプレニッポンの、それもうまふくの企画に共感して参画させてもらったかというと、やっぱりコンセプトでしょうか。

ふるさと納税のしくみを活用した「うまふく」

というわけで、ここからは、うまふくについて、ご紹介させていただきますね! うまふく うまふくは、ふるさと納税のしくみを参考にしています。 利用する人が「寄付」をすると、障害のある人が働く福祉事業所やNPO法人などから「返礼品」が送られてきます(うまふくを通した寄付は、ふるさと納税の税額控除の対象にはなりません)。 集まった寄付金は、施設で働く人たちの自立と夢を叶えるために使われます。 ふるさと納税のコンセプトって、「応援したい自治体に寄付する」というものだと思うのですけど、うまふくもこれと同じで「応援したい福祉施設に寄付をする」というのがコンセプトになります。 詳しくはこちら 返礼品としてお返しするのは、寄付金の3割程度の商品。残った寄付金は、商品開発や設備投資、販促など、施設さんの販売活動の資金として使われます(それぞれの施設がどのように寄付金を使っていくのか、うまふくの施設紹介ページでも紹介してます!) ふるさと納税とは違い、うまふくの場合は施設に直接寄付をしてもらいます。商品に込められた想いやストーリーを知ってもらったうえで応援してもらえるのです。 施設さんのサイト掲載費は無料。掲載スタートのときだけ登録費がかかりますが、一緒にうまふくのPRをお手伝いいただける施設さんには登録費の割引などもしています。はじめに登録費をいただくのは、「持続可能な形で、本気で商品を伝えていこう」という双方の決意表明にもなると思っています。 応援する人にとっての持続可能性=無理なく応援を続けられることも必要、という観点で立ち上がった事業なので、「うまふく」でもふるさと納税と同じく、障害者福祉事業所に対する寄付金が所得税または住民税の寄付金控除の対象となる場合があります。日本初の取り組みなので、弁護士さんに相談しながら手探りで進めていますが、今のところ、問題なくご利用いただけています。 寄付金控除についての詳細 ちょっと話変わるんですけど、私、仕事大好きなんですよ。今もなんだかんだ365日働いているいわゆる「ワーカホリック」なんですけど、「お金のため」とかではなくて、働くことそのものが好きなんです。 なんで、働くのが好きなんだろう?っていうのはあまり深く考えたことはないのですが、自分の仕事の向こうにいる誰かのために役立っているって思えるからですかね。この気持ちってみんな同じだろうなあって思っていて、だから、福祉事業所で働く人も、自分たちがつくったものが誰かの手に届くこと(おいしいを届けられること)は絶対にうれしいだろうなあ、と思うんです。 でも、福祉施設でつくったものって、まだまだ身近ではないですよね。 私自身も何かのイベントでたまたま見かける、とかで購入したことはあるんですけど、「おいしかったから、また食べたいなあ」と思っても、あそこに行けば手に入るというチャンネルがなかなかなくって。 うまふくで紹介している商品は自分たちが出会って、食べて、実際に「これはおいしい!伝えたい!」と思ったもので、リピートも可能なのです! 「福祉事業所で働く人たち」、そして「その人たちがつくるプロダクツ」にフォーカスを当てた支援の形を広めていきたいなぁ、と思っています。

うまふくで出会える口福

さてさて、ここからは現在、うまふくでご案内している「口福」な品々をご紹介させていただきます。 就労継続支援B型事業所スマイルガーデンの洋菓子 こちらの施設さんは洋菓子を作っているんですけど、レシピがすごくて。 海外の洋菓子コンクールで数々の受賞歴・国際審査員経験を持たれている一流パティシエからレシピをいただいて、お菓子作りをしているっていう本格派なんです。 レシピを最大限に活かすために、材料やオーブンなどの機材もプロと同じものを利用しています。 商品ラインナップは、しっとりとしたバターのコクに、アーモンドのフレーバーで味に奥行きを加えた「横浜フリアン」、ひと口ごとに爽やかなレモンと香ばしいアーモンドの風味が広がる「マドレーヌ」、素朴で優しい食感の「プレーンクッキー」など。 計量、生地づくり、成形・絞り、焼き、袋詰めのすべての工程を施設の利用者さんが丁寧に、そしてプロフェッショナルに進めていますので、おいしいに決まっているんですよ! スマイルガーデンさんでは、寄付金の使い道として「商品開発費、パッケージ製作費、機材の追加購入費に充てて、さまざまなアイデアや企画を考え仕掛けていきたい」とおっしゃっています。 晴れ晴れの「ベーゴマクッキー」や国産米粉と小麦クッキー 見た目もキュートで、インスタ映え間違えなし(笑)のベーゴマクッキーなんですけど、日本で唯一のベーゴマ製造・販売元である(株)日三鋳造所さんの公認クッキーでもあるんです。 施設のある川口は鋳物の街として有名なんですけど、その鋳物の焼き型で焼き上げたベーゴマ原寸大のクッキーという、こちらも本気度が高い製品なんですよ。 苦手なことの多い施設の利用者さんが、お互いの苦手さを補い合い、工夫しながら作っています。 代表のひとりである松山もこのクッキーは大ファンです。その他、地元埼玉県産狭山茶入りの「茶葉丸」、和三盆糖を使用した「和三盆」など、やさしい触感と味わいの米粉のクッキーやダイナミックな触感が楽しい小麦のクッキーもあります。 様々なイベントに出展するための準備を進めていて、寄付金は、それに向けた生産体制を整えるために活用されます。 東京ソテリアエンプロイメントのグラノーラ ヘルシー志向が高まる中、「大人向け」のグラノーラを日本でもよく見るようになりました。 東京ソテリアさんのグラノーラは白砂糖・化学調味料・合成甘味料・保存料などを一切使用せず、なるべく有機のものを利用して作っているという最上級のヘルシーさ!牛乳をかけたり、ヨーグルトに混ぜたり、お菓子に使ってもいいですよね。いくら食べても「罪悪感」のわかない(笑)ヘルシーさって、嬉しいですよね。 寄付金は、広範囲に移動販売車で出向ける仕組みづくりと商品開発の費用に活用されます。 待望園の完熟カシスソース 八甲田山からお届けするのはなんとカシスソース。 青森と言えば、「りんご」しか思い浮かばなかったのですが、実は青森市ってカシスの生産が日本一なんだそうです。 カシスと言えばフランスっていう単純なイメージですけど、津軽弁とフランス語も何となく似ているし、なんて思っちゃいますね! 私はカシスが大好きで、何かでカシス味があれば選んでしまうんですけど。この前、山梨県にあるガストロノミーレストラン「terroir 愛と胃袋」さんで、このカシスソースを使ってハンバーグを作ってもらったのですが、カシスの酸味がハンバーグをあっさりとさせて、すごくおいしくなりました。 シェフ曰く、このカシスソースは糖度が低いので(通常は30とか40とからしいのですが、ここのは10だそう)、お料理にもあうんだそう。ソースから広がる新しいレシピを考えるのも楽しそうですよね! ◆レシピ「terroir 愛と胃袋」と待望園のカシスソース 寄付金は、水回りを中心に老朽化が進んだ施設の建て替え、送迎車の買い替えの資金として使われる予定です。 進和学園の湘南完熟トマトジュースとピューレ 60年以上の歴史を持つ社会福祉法人「進和学園 しんわルネッサンス」、福祉業界をけん引するパイオニアとして、その活動も多岐にわたっています。そんな彼らの自信の一品は、地元湘南産の完熟トマトをさらに熟成させて製造したトマトジュースとトマトピューレです。食塩も水も加えずにトマトだけで作ったピュア中のピュアです。 こちらを使ったテリーヌを山梨県にあるガストロノミーレストラン「terroir 愛と胃袋」さんに作ってもらったのですが、1日かけて濾したエキスに具材を入れてさらに1日かけて冷やして固めるという「材料冥利につきる」逸品となりました。 「時短」とか「効率」というのとは真逆の発送ですが、なんかふと我に返りますよね、「やっぱり、違うものができるよな」っていう。 「こういう丁寧な生活をしなきゃ」とは思えないのが、悲しいところなんですけどねw ◆レシピ「terroir 愛と胃袋」としんわルネッサンスのトマトジュース 寄付金は、地域の生産者さん、消費者さんとつながって、より良い産業と消費を生み出す地域農業活性化のための設備投資に使われる予定です。 全ての施設さん、商品をここで紹介しきれないのが悔やまれますが、ぜひうまふくのサイトをご覧いただければと思います! “ You are what you eat.”っていう言葉がある通り、私たちは食べたもので出来ているんで、食べるものってすごく大切で。 「食べたもの」そのものが私たちの体をつくり、「その食べ物の背景にあるストーリー」が私たちの人生をつくる、と思うと、私たちうまふくは、もっともっといろいろなプロダクツを紹介しなくちゃいけない、軽い焦燥感は覚えるんですけど、かといって、なんでもかんでも紹介したいか、と言ったらそれも違うんでね。 今まで通り、私たちのペースでいいものをじっくり見つけて、大切に大切にこのサービスを育んでいけたらな、と思っています。 以上、殿岡よりレポートでした!  

全方良しで、楽しく続けていくために

再びひらばるです。殿岡さんのレポート、いかがでしたか? ゲラメモからはじまって、うまふくというしくみづくりへと発展したプレニッポンのソーシャルデザイン。うまふくもまだまだこれからではありますが、一つひとつの段階があってこの形に行き着いたんだなぁと、読みながらしみじみ。 せっかくなので、前編で「持続可能になっていくために、みんな無理なく暮らしていけるように、地域とか社会の課題を吸い上げて解決していく」というあり方を提起してくれた松山さんにもコメントをもらいました!
ひらばるさんから「ソーシャルデザインは、社会課題があってそれを解決するためのしくみを生み出すことだと思う」と言われたときに感じた違和感。しばらく考えて気がついたのは、言葉の定義の違いではなく、自分がやりたいと思っているソーシャルデザインとの違い、ということでした。 障害者福祉の業界もふくめ、社会問題に取り組んでいる方たちって、みなさんすごくまっすぐで熱心で、ただただ「すごい!」と感じるばかりです。でもときどき、そのまっすぐさや、みんなが同じ目的に向かって進んでいるそのさまが、すこし窮屈そうで、排他的に感じてしまうこともあったんです。 うまふくの企画を思いついたのは、そんなことを考えているときでした。 障害を持った方の賃金(工賃)をあげるために、いろいろな取り組みが広がってきました。施設さんで試行錯誤をして、新しい商品を開発して販売する。それをPRするマルシェやイベントがいくつも開催されて、施設さんをサポートするプロデューサーやクリエイターも増えてきた──。でも、それだけではなく、もう少し違う視点で、たくさんの人を巻き込んでごちゃまぜにするようなことを、やる人がいてもいいんじゃないか 個人的には、ソーシャルデザインは「課題解決のために」からスタートしなくてもよいと思ってます。ただ、「なんでこれがうまくいってないんだろう」という違和感や、社会の課題に対するアンテナだけは、しっかりとはっておく。そして、自分のやりたい事業やアイデアが生まれたときに、マッチしそうな人たちを上手に組み合わせてつくりあげていく。そのほうがきっと、やっている本人も楽しく続けられるし、そういう人たちが増えていけば、いろんな課題が自然にいい方向に向かっていくんじゃないかな、と。 サポートする側も、それをサポートする側も、お互いに無理なくがんばらずに続けられる。当事者には見えない“半”当事者(くらい)の視点で、いろんな人たちを巻きこんでかき混ぜていく。そんな取り組みをこれからもたくさんしていきたいと思っています プレニッポン 共同代表 松山康久
  今回こうして、長い時間をかけて活動を続けてきた仲間たちと、ソーシャルデザインや自分のありたい姿について話し合えたのは、私にとって価値深いことでした。 それを内に留めずそのまま記事にしてみたのもmazecoze研究所らしい挑戦になったかなと感じています。maze研も松山さんの言う、好きと楽しいをかけあわせて続いているソーシャルデザインのひとつなのかも!? 持続可能なソーシャルデザインのあり方は、人や社会との関係性やアイデアのかけ合わせの数だけ無限にあって、そうした活動を通じてそれぞれが幸せを感じる選択肢がもっと増えていけばいいなと思います。そして自分もささやかに行動し続けていきたいです。 皆さんにとってのソーシャルデザインは何ですか? ●PReNipponの取り組みを紹介してくれている書籍 復興から自立への「ものづくり」:福島のおかあさんが作ったくまのぬいぐるみはなぜパリで絶賛されたのか
研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

「平原 礼奈」の記事一覧を見る

ページトップへ戻る