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第2回:タネを取り続けて栽培するのはあたりまえ、ではなかった!

明石 誠一 │ 2020.03.18
トマト発芽したて(写真:明石誠一)

本当の収穫は、命の螺旋の中にある

明石農園のタネは固定種と言われるタネで、栽培している60種類のうち40種類ほどはタネを取り続けて栽培しています 初めて大根の種を取った時、こんなことを感じました。 「この大根一度も途切れたことがないから、今ここにいるんだよなぁ。すごいな……。 あれ、俺もそうじゃないか。 お、今いるすべてのものがそうじゃ無いか!?みんなすげー!奇跡だな」 大根の種を取ったことで、命の螺旋の中に自分も関わらせてもらっているという実感と、この瞬間にいるもの全てがそうなんだと気がつきました。
●大根のタネの取り方
  • 大きくなった大根を引き抜く
  • 形のいいものを選び、採取場へ植え替える(大体60cm間隔)
  • 3月になると葉の付け根の中心からツボミが伸びて、脇芽も伸びて広がる
  • 白と紫の花が咲き乱れ、とても綺麗
  • 6月にタネのサヤが茶色く枯れていくものから順次刈り取っといく(スズメも大根のタネが好きなので、少し分けてあげる)
大根にとってはタネを残すこと、命をつなぐことが目的じゃないかと思います。これが本当の収穫。大根さんは命をまっとうしたことになります。 私たちが普段目にする大根はいわば「苗」の状態ですね。いい苗を植えて、春先に花を咲かせタネを実らせ、それを収穫する。お米と同じですよね。 呼び方はお米、白菜、トマト、果物、雑草、野草、山菜などと呼んでいますが、みんな同じ植物です。植物と動物を総称して「生物」と呼びます。理科で習いましたね。「いきもの」と書いて生物。お野菜は生きているんですね。タネを、子孫を残そうという意識や意志があります。 どこに意識と意志があるんでしょう? 電子や分子に意識や意志があれば、説明がつきますね。そんな想像までしてしまいます。

タネのタネ明かし(明石農園だけに)

mazecozeでもお馴染みのこの写真のタネは、すべて明石農園から!

はじめに明石農園では「タネを取り続けて栽培」している、と書きました。 「タネを取るなんて、植物なら当たり前のことをなぜわざわざ」と思いますか? 実はタネを取っている農家は少ないのです。 その説明をする前に、少しタネのお話をしたいと思います。 タネには、交配種在来種固定種があります。 市場の99%以上は交配種のお野菜です。 交配種はある2種類の品種を掛け合わせたタネのことを言います。 交配するといいことがあります。それは大きく育ち、形の揃った野菜ができること。メンデルの第一法則「優劣の法則」って勉強しましたよね。 明石農園でもお世話になっている「野口のタネ」さんの説明を一部引用させていただくと、
メンデルの第一法則「優劣の法則」により、異なる形質を持つ親をかけ合わせると、その第一代の子(F1=雑種第一代)は、両親の形質のうち、優性だけが現れ、劣性は陰に隠れます。あらゆる形質でこの優性遺伝子だけが発現するため、交配種野菜は、一見まったく同じ形にそろいます。 反面、交配種野菜からタネを採ると、優性形質3に対し、1の割合で隠れていた劣性形質が現れます。(メンデルの第二法則「分離の法則」)野菜の場合、発芽速度、草丈、葉色、根群、果色はじめあらゆる形質で劣性遺伝子が分離して顔を出すため、F1から自家採種したF2世代は、見るからにバラバラの野菜になってしまいます。(F3世代は当然もっともっとバラバラになります) 念のため付け加えると、ここで言う優性と劣性とは、どちらかがもう一方より優れた性質であるということではありません。異なる二者をかけ合わせた時、表面に出るほうを優性、隠れるほうを劣性と解釈するだけですので、お間違えないよう。
(出典:野口のタネ・野口種苗研究会) ※現在は、「優性遺伝」「劣性遺伝」を「顕性遺伝(優性遺伝)」「潜性遺伝(劣性遺伝)」と表記する方向で見直しが進んでいます。 (参考サイト:日本医学会医学用語管理委員会委員) 「野口のタネ」さんも書かれているように、交配種は綺麗な野菜を作ることができる一方で、困った点もあります。交配種からタネを取って翌年に蒔くと、元の2種類の形と混ざったものの3種類が生えてくるのです。 どんな野菜ができるかは蒔いてみてのお楽しみ……というわけにはいかないので、農家は毎年タネを購入しないといけません。 在来種とは、昔からその土地で栽培されて、タネを取り繋いできたものを言います。 固定種とは、在来種をタネ屋が販売する時に使います。例えばタネ屋さんは早生丸葉小松菜(わせまるはこまつな)ならその小松菜らしい形質を受け継いでいるタネを販売しないといけません。少し違う種類が混じってしまうと、いろいろな形の小松菜になってしまいます。 そうなれば、タネ屋の信用ガタ落ちですよね。早生丸葉小松菜らしい形質が固定されたタネという意味で固定種と呼びます。

タネは買うもの?

ルッコラの花。花も種もルッコラの味がします!(写真:明石誠一)

市場の99%以上は交配種のお野菜、つまり、多くの農家さんは毎年タネを買っています。 私が新規就農して驚いたことの一つに「農家はタネ取りしていない!?」ということでした。野菜のタネを取ったら、タネを買うお金がかからないからお得だと思っていました。農家さんからしたら「タネは買うものと思っていた」というのが一般的な考え方です。 今から2世代前の農家さんのは自分でタネを取る(自家採種している)方が多かったと思います。でもこの数十年の間に、タネは買うものに一変しました。 なぜタネはタネの専門業者さんから買うものなのか? 品質が良い、生育の揃いが良い、耐病性がある、自分でタネ取りする手間がかからない、タネを取る畑のスペースが必要ない、自分で取ったことがない、自家採種したら揃いが良くなくなる、病気が出たらまた病気にかかるといったところでしょうか。 一般的な農家さんがスーパーさんにお野菜を納めるとき、「3月〜5月の2ヶ月間、この小松菜の棚を毎週2回、100袋納めてください」と契約を交わしたとします。絶対に欠品はダメ!です。今後取引がなくなります。 スーパーさんとして棚を開けることは絶対にやってはいけません。お客様が離れていってしまうからです。 そしてお客様は、私やみなさんですよね。 誰が、何がよいわるいでは言い表せない、社会が作ってきたしくみがあります。これを意識するかしないかだけでも、変わってくると思っています。 もしもの話ですが、タネの特許権を誰かが持っていて、そのタネを「売らないよ」と言われたら、どうなりますか? 「いや、食料がないと困るから、タネ売ってよ」 「じゃあ、タネはこちらの言い値で買い続けてね。タネをとったら特許権侵害で訴えるからね。」 こんなことが起こるはずない!?と思いますか。 もうすでにそうなっているとしたら? 交配種の開発者は、これを品種登録し、特許権を得ます。交配種を開発するのには大変な時間がかかります。8年とか10年とか。だから品種登録されてから権利存続期間は25年あります。 開発者のことを考えたらこれは当然のことです。 ただ、特許権を持った野菜の花粉が、風によって交雑(違う花粉を受粉)した時に、農家さんが特許権侵害で訴えられたという事例があって、私はそれは違うと思います。 「タネを支配するものは世界を制する」が現実に近づいているのか……。 食べ物って、自然からの恵みです。だれかのものではなくて、みんな分け合ってきたもの。食料がないのは生き物として死を意味します。

いきものみんな、「根」がだいじ

スナップエンドウの花(写真:明石誠一)

発芽といえば、タネから芽が出ることを言います。でもタネからまず最初に伸びるのは「根」なんですよ。発芽ならぬ、発根ですね。 大事なものから伸ばすはず。つまり根が大事なんですね。見えないところが大切。 小さい時から根をグイグイ伸ばして、微生物と共生関係を結んで養分を得ていきます。根が7割、見えている地上部は3割です。みんなの目につかない日々の努力が大切ということでしょう。 目の前にエサ(肥料)があると根を伸ばすことをしません。上げ膳据え膳状態です。「若い時の苦労は買ってでもしろ」なんて言いますね。自分で探す努力をすると、広く深く根を伸ばし、それから大きな枝葉を広げて、きれいな花を咲かせ、実の詰まったタネを残すことができます。人生で言うところのタネは人それぞれなんでしょうね。自分らしいタネを遺したいものです。 ●明石農園からのお知らせ 1)八芳園さんで、明石農園のお野菜に会えます^^ 八芳園さんの自然栽培のお野菜を使ったお料理を提供するレストラン「スラッシュカフェ」で、明石農園のお野菜を使っていただいてます! 3月20日から4月5日まで、桜のフェアが開催されます🌸 満開の桜の日本庭園を眺めながらお食事が出来ます! ご予約がオススメ♫ 2)「みん根」、試験的にスタート 農的コミュニティのづくりのスタートとなる、みんなで根菜畑、略して「みん根」が3月20日から試験的にスタートします。 根菜を自然栽培でみんなで作り、自宅に食料が備蓄されている安心感を味わうがコンセプト。本格始動は来年を予定ですが、予約受付中です! 問い合わせ先:農業体験スクールソラシド

明石 誠一

明石農園代表 あかし野菜 タネは固定種で農薬、肥料を使わない生物多様性を活かした自然栽培農家。農業サイドから福祉やコミュニティ作りを行なっている。 畑や林でのイベント主催、農業指導、共著書籍も出版。明石農園が舞台となるドキュメンタリー映画「お百姓さんになりたい」も2019年より全国で上映されている。林の演奏会や家庭菜園をコミュニティの場としてさらに拡大中。大学までサッカーに夢中。美術好き。3児の父親で、晩酌が楽しみ。お休みは家族でキャンプ。
 
研究員プロフィール:明石 誠一

明石農園代表
タネは固定種で農薬、肥料を使わない生物多様性を活かした自然栽培農家。農業サイドから福祉やコミュニティ作りを行なっている。
畑や林でのイベント主催、農業指導、共著書籍も出版。明石農園が舞台となるドキュメンタリー映画「お百姓さんになりたい」も2019年より全国で上映されている。
林の演奏会や家庭菜園をコミュニティの場としてさらに拡大中。大学までサッカーに夢中。美術好き。3児の父親で、晩酌が楽しみ。お休みは家族でキャンプ。
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