English

この川崎の片隅で体感した映画音響革命「LIVE ZOUND」【後編】

平原 礼奈 │ 2017.04.14

「この世界の片隅に」×LIVE ZOUND体験!

前編・中編では「映画音響革命LIVE ZOUND」が生まれるまで、そして生まれてからの広がりについて聞いてきました。ここまで来て、LIVE ZOUNDへの期待感はうなぎのぼり。 今回はご好意でLIVE ZOUNDを体験させていただけるということで、一同そわそわとLIVE ZOUND が導入されたCINE8へ!
今回セレクトしていただいた映画は、絶賛上映中のアニメ映画「この世界の片隅に」です。実はひらばる、この漫画の大ファンで、別の映画館でもすでに観ておりまして。どちらかといえば静かな印象の映画が、LIVE ZOUNDの手にかかるとどんな世界を体感させてくれるのか、楽しみでなりませんでした。 いざ体験! ……圧力と奥行きを感じる圧倒的な空間。セリフはもちろん、たとえば湯呑みを机に置くだけの日常動作なのに、その音のリアルなこと。ネタバレになるのであまり言えませんが、防空壕の中での物音から伝わる緊張感、爆撃の轟音、すべてが別次元の臨場感。音が、たしかに透明な形になっている! 暗いシネマ空間の中で、ときどき両脇に映る大きなスピーカーの異物感がまたなんかいい! 体験後、部屋に戻ってきた我々LIVE ZOUND隊のキラキラした瞳をお見せしたかったです。
みんな高揚しています。映画好きのカメラマンさんも、インタビューに入っちゃってますね。美須社長もまだ待っていてくださいました(笑)
LIVE ZOUNDって、大音響を楽しむものだと勘違いしていたのですが、静かな音でも違いが明確で、これが空間を作るということだったのかと興奮気味に伝えましたら、 「3つのタクティクスというものを作っています。ハーモニクスと、ハードコアと、それのいいとこ取りをしたハイブリッドの3つの考え方に基づいて、1作品1作品、自分で視聴しながら音を調整しているんです。」と、山室さん。 プロダクトを作って終わりではなくて、作品に応じて一つずつ空間を作っていたのですね。ちなみにLIVE ZOUNDの杮落としとなった「シン・ゴジラ」と「君の名は」も、「シン・ゴジラ」がハードコアなら、「君の名は」はハイブリッド。全く質が違う印象の映画でも存分に楽しめるということを確認したそうです。ミュージカル映画は、ハーモニクスに分類されることが多いとのこと。 先ほど鑑賞した「この世界の〜」のタクティクスは「ハイブリッド」だそうで、静動どちらも味わえる作品をお選び頂いた意図が分かりました。

全員から支持されるのは無理。でも、エンタメに本気

LIVE ZOUNDでの上映を開始して数ヶ月、思わぬトラブルが起こりました。 「マッドマックス」という作品をものすごい音圧で上映したところ、下にある別のスクリーンにまで振動が伝わってしまったのだそう。どんだけの音が出ていたのでしょう(笑) 美須社長がトラブル対処の方法として選んだのは、「映画音響革命の証に、影響の出る劇場のお客様にお詫びのドリンクをプレゼントする」という決断でした。 「社内会議を開いて、じゃあどうしようかと。音を少し下げたほうがいいんじゃないかという意見もあったんですけど、社長は音を下げない決断をしました。下げない方法でお詫びを伝えようと。それで、ドリンクでとなったのですが。お客様にはTwitterなどにお詫びの言葉を載せて。少し、開き直った様な文言なんですけど、結果として、それを支持してくださったお客さまがいたんです。あぁ、チネは音を落とさないんだ、と」と藤本さん。 お詫びの言葉一部引用
この音響システムは既存の映画音響を脱し、今までにない映画音響…つまり映画音響革命を目指しております。 この目標に邁進し今回の『マッドマックス~』では、劇場爆裂の一歩手前の正に狂気の音響空間を実現させた為、振動や重低音の影響が発生する可能性がございます。お詫び申し上げますと共に、何卒ご理解を賜れればと存じます。 なおこの度、チネ8の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と同時間帯にチネ1、チネ2、チネ3で映画をご鑑賞のお客さまにつきましては、心ばかりではございますが、この映画音響革命へのご参戦のしるしといたしましてご入場時にドリンク(Mサイズ)のサービスクーポンを配布させて頂きますので、どうぞご利用下さいませ。
「本来はあっちゃいけないんですけどね、他のスクリーンに影響を与えるなんて。でもなぁ〜、これはしょうがないな、革命だから。全員から支持されようと思うと、いかにもフラットなものになっちゃうし、そもそも大きい音が嫌い、っていう人はたぶん来ちゃいけない(笑)もちろん、お客さまの声も聞いていて、内容によっては調整していますが、全部の意見はくめないんですよ」と美須社長も言います。 軸はぶらさないソフトのアイデアで、結果として逆にファンを増やしてしまったなんて、映画音響革命への本気度を突きつけられたような気持ちになりました。骨の髄までエンターテイメント!
「お勧めの席はど真ん中ですね。ど真ん中で調整してるんで」と山室さんにこり
最後に「みなさんにとってエンターテイメントとは?」という質問を投げかけました。 「いいものを届けること」と即答の山室さん。 藤本さんは、「僕にとってのエンターテイメントは、若い頃にいろんなものを教えてくれた映画でした。今、せっかくその現場で働いているので、お客様の人生を変える映画体験を作っていきたいですね」としみじみ。 そして美須社長は、「うーん……どうしようかな。エンターテイメントとは少し違うけれど、今回はもう、パンクにやろうと。チッタ全体で取り組んでいきたいテーマでもあります」 パンク! お洒落でイタリアンな雰囲気漂うチネチッタさんでこの言葉を聞くとは正直意外でしたが、LIVE ZOUNDからもみなさんからも溢れ出す、新たなものを創造しようとする勢いと思いの強さは確かに、パンク。なんだか妙にしっくりきてしまいました。 いま、「映画界全体が過渡期にきている」と問題意識を持つみなさん。時代の狭間で映画業界としてその問題をどう捉えるかを突き詰めた結果、非日常空間の「体験」に特化したLIVE ZOUNDが生み出されました。そして、さらなるエンターテイメントの進化を見据える姿こそ、パンクな映画音響革命のあり方なのだなぁと感じます。 我々も革命軍の一員として、これからもハードコアに劇場に足を運びたいと思います! (撮影:ユイネハヤト 協力:ナカイユウヘイ 取材・執筆:ひらばるれな)
LIVE ZOUND
研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

「平原 礼奈」の記事一覧を見る

ページトップへ戻る