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バリアフリー地図情報発信アプリ「Bmaps(ビーマップ)」の開発者・審査員対談をしました!【前編】

平原 礼奈 │ 2018.09.05

Bmaps杯の審査員に任命されました!

こんにちは。久しぶりに「ダイバーシティめぐり」更新です。 ひらばるの周りで起こる、多様性からはじまる新しい価値について紐解く当コラム、出産数日前に公開した第1話からかれこれ数ヶ月……。今回はわずか第2話にして夏の特大号です。豪華ゲストの方々にご登場いただきますよ! さて、昨年10月に第2子を出産した私ですが、実は出産の5ヶ月ほど前から1年間、夫が海外に単身赴任していたのです! イヤイヤ期&赤ちゃん返り&パパロス3点そろった長女(当時3歳)と乳飲み子との3人生活は、壮絶でした。特に産休・育休をとらず、仕事をし続けていたこともあり。 父母や仕事仲間、保育園の先生方、ママ友はじめ、たくさんの方からサポートしてもらって、ときにマインドフルネス風の何かで自分を保ちながら、なんとか乗り切る事ができました。 そんな中で特に困ったのは、子供たちを連れて外出するときです。 どこへ行くにも気になる移動のバリア・オムツ替え・授乳スペースの有無に加え、分単位で変化する子供のご機嫌、天候・時間・荷物量・街の混み具合といった事案がごちゃまぜになって……。冬でもいつも大汗かいていました。冷や汗ともいう。
外出時には、やたら荷物が多くなる。自分の背中にはパンパンのリュック必須。
某ターミナル駅にベビーカーで行くと、それまでスロープやエレベーターがあったのに途中から階段のみになってしまい呆然としたり、お店の入口にある3段くらいの段差と地味に格闘したり。授乳スペースを探して彷徨い、挙句トイレの個室で立ち飲みさせたことも……。
ベビーカー2台使いもなんのその。
ささやかなどん詰まり体験が街には溢れていて、「今日1日、この子たちの命を守りきることができるだろうか……」という恐怖心に襲われるとともに、正直なところ、保育園がない土日が憂鬱で仕方ありませんでした。 結果、出かける先には設備の整った近隣デパートやショッピングセンターを選びがちに。あちこち行きたい長女をおもちゃで釣るハメに。 安心が一番だけど、たまには行きたい場所に行ってみたい! そんなときに出会ったのが、バリアフリー地図アプリ「Bmaps(ビーマップ)」です。Bmapsは、こまやかなバリアフリー情報をみんなでシェアできちゃうアプリ。たとえば授乳室であれば、行きたいお店の中にあるのか、なければそのお店界隈である場所は? と街全体から検索できて、なんとも心強いのです。 前置きが長くなりましたが、このたびご縁があって、Bmapsが実施するイベント「Bmaps杯」の審査員に任命されました! そこで今回は、Bmapsを開発した方々と審査員の皆さまにお集まりいただき、情報バリアフリーが起こすイノベーションについて熱く語ろうという企画です。
Bmapsは、障害者や高齢者、ベビーカー利用者、外国人などが外出時に求める情報を共有・発信するアプリ。アプリを開くと、現在地を中心に投稿されたお店や施設情報が地図に表示される

ご参加くださった皆さまをご紹介

安藤 美紀さん

特定非営利活動法人MAMIE 理事長/日本聴導犬推進協会理事/鹿児島補助犬シンポジウム副理事長/日本聴導犬パートナーの会 代表等 全国各地の小中学校や商業施設などで「きこえないことって?」「聴導犬って?」などを題した講演を行い、普及活動に力を注ぐ。障害児の学ぶ場パソコン・絵画教室、学習塾「マミー学園」も開設。聴導犬アーミと共に行動する。 Bmaps杯グッドレビュー部門審査員。

垣内 俊哉さん

株式会社ミライロ 代表取締役社長/日本ユニバーサルマナー協会 代表理事/日本財団パラリンピックサポートセンター 顧問 等 立命館大学経営学部在学中の2010年、株式会社ミライロを設立。障害を価値に変える「バリアバリュー」の視点を活かし、企業や自治体、教育機関におけるユニバーサルデザインのコンサルティングを手がける。2014年には日本を変える100人として「THE100」に選出。Bmaps杯グッドレビュー部門審査員。

井原 充貴さん

ミライロ ITソリューション事業部 部長 Bmaps事業推進担当

村川晋平さん

ミライロITソリューション事業部 Bmapsの開発・運営を担当。今回は大阪拠点からテレビ電話でご参加!

岸田奈美さん

ミライロ 広報部 部長

高内利枝さん

ミライロ コネクト事業部 手話通訳士

maze研 ほてはま

「すごいなー」を連発。

maze研 ひらばる

わたくし。「シュワッチ」でなくmaze研の紹介で「研究」という手話をしているところです。

「Bmaps」は、誰もが街に出かけられる世界を創るアプリ

2017年4月にリリースされてから、投稿(レビュー)数は約10万件、登録ユーザーも約8千人(2018年7月現在)と、自主的な投稿によるバリアフリー情報を地図上に広げているBmaps。 日本財団の支援を受けて開発され、特定非営利活動法人CANPANセンターと株式会社ミライロが共同運営しているアプリです。 今年2月には、オーストリアのエッスル財団が主催する「ゼロプロジェクト会議」という国際的に権威ある会議の革新的事例部門で、日本の民間企業として初めて表彰されて話題を呼びました。 その使い方はいたってシンプル。

①検索

行ってみたい場所を名前やエリアから検索。 その場所の情報が投稿されていれば、エレベーター、授乳室、オストメイト対応トイレ、wi-fiの有無などのレビューをチェックすることができる。

②投稿

自分が行ったお店の情報を投稿。 スポットレビューや特徴・設備項目をチェックしてコメント・写真などをアップすれば、誰かの役に立つ!
私もお世話になっていますが、ほしい情報と行ける場所をさくさく検索できて便利なんです。早速、Bmapsの開発元である株式会社ミライロ代表の垣内さんに、その誕生秘話を教えてもらいましょう!

目標は、地図上のすべての建物のバリアフリー情報を集めること

株式会社ミライロの垣内俊哉 代表取締役社長。 UD・バリアフリー界を牽引するリーダーでありながら、なんと平成元年生まれ、まだ20代!
垣内さん「社会に存在するバリアには、大きく分けると次の3つあると思います。 1、環境のバリア 2、意識のバリア 3、情報のバリア 環境や意識のバリアについては、これまでも建物のコンサルティングやユニバーサルマナー検定を実施するなどして解消に努めてきました。 でも、情報のバリアはまだまだ解消できていないなと。自分が行きたい場所へ行けるのかわからないという人は今も多くいます。そこで、地図に載っている全ての建物のバリアフリー情報を収集できないかと思ったことがはじまりでした」
垣内さんがまだ大学生だった時に起業したミライロさんの理念は「バリアバリュー」。障害を取り除いたり克服したりするのではなく、価値に変えていくことを目的に、多様な取り組みを推進されています。 自身も車いすユーザーだからこそ気づけることがたくさんあると話す垣内さんは、いまではバリアバリューに関わる広域なコンサルティングが話題を呼び、TVやメディアでも引っ張りだこ。 垣内さん「会社設立後はじめての仕事はバリアフリー地図づくりでした。そう考えると、いまのBmapsに通ずる活動原点と言えるかもしれませんね」

多様なユーザー目線から「使える!」情報を

そうしてスタートしたBmapsには、様々な特性のあるユーザーが「この情報が欲しかった!」と思える視点が盛り込まれています。 垣内さん「たとえば、『段差のあるなし』という情報だけではあまり役に立たないんです。段差が1段であれば、車いすのまま自力で越えられる人もいるし、一緒にいる人に押してもらえばよいことが多い。でも、2段3段あると途端にバリアが高まります。車いすを担がなければいけなくなり、必要な人手もフォローの仕方も変わってきます。ベビーカーでもそうですよね。Bmapsでは、段差がないのか、あるならば1段なのかそれ以上なのかをチェックして投稿できるようにしています」
ほかにも、エレベーター、オストメイト対応トイレ、授乳室やwi-fiの有無など「17の特徴・設備項目」を確認することができるのだそう。 垣内さん「コンセントの有無という項目では、PCやスマートフォンの充電ができるということだけでなく、電動車いすのバッテリーが切れてしまっても充電できるという視点があります。 クレジットカードや電子マネーが使えるかどうかという項目は、海外から来る旅行者にはもちろん、紙幣でのやり取りにバリアを感じがちな視覚障害者のことも考えて項目を立てています」 バリアを最も感じやすい人の視点からスタートして、それが旅行者やビジネスパーソンまで幅広い人にとっても便利な情報になる。まさにバリアバリュー!
垣内さん「でも、完璧なバリアフリーを求めているわけではありません。 たとえば、この店は車いすで入るのは無理かなと思っても、ベニヤ板をスロープ代わりに出してくれることもあります。それだって立派なバリアフリーですよね。 店舗の方は積極的にはそのことを発信しないんです。なぜかというと、『うちはこの程度しかできてないので』と奥ゆかしいからです(笑) Bmapsでは、電子マネーが使えるだけでも立派なバリアフリー、みんなが使いやすいポイントが一つでも二つでもあったらいいんですよ、とお伝えしています。 そうして敷居が下がると必然的に情報が集まってきますし、街に出かけられる人も増えます。それが一番大切なんです」

聴導犬は入店拒否!?

Bmapsユーザーで、Bmaps杯審査員のお一人である安藤さんにも聞いてみましょう。安藤さんは聴覚障害があり、聴導犬のアーミと共に行動しています。 安藤さん「普段、聴導犬を連れてお店に行くと、だいたい拒否されるんですよ。5件に3、4件はNGが出ます」 え!? 聴導犬への理解が浸透していないという状況に、一同ざわめき。
「お客様」という手話表現をする安藤さん
安藤さん「ペットと見られてダメということもありますけど、お店って、パートやアルバイトの方が多いでしょう? 上司から『補助犬は入店OKなんだよ』ということを聞いていないと、とっさの判断ができないことが多いんです。 そんな状況でも、私が10年間続けているのは、笑顔を絶やさないこと。『大丈夫、大丈夫、分かってます。じゃあどうしたらいいですか?』って。こっちが嫌な顔をしたら、空気が凍りつくだけですから。 隣の席の方に声をかけていただいて『いいよー』と言われて入店することもあります」
まだまだ補助犬NGのお店が多いなんて、、「うちはウェルカムですよ」というお店も多いと思うので、お店の方、積極的にアピールを!Bmapsへの投稿もぜひに!
補助犬とは、盲導犬、介助犬、聴導犬など、目や耳や手足に不便さがある人の自立や社会参加を助けるために特別な訓練を受けた犬のこと。 「補助犬入店禁止」というのは法律で禁止されているので、あってはならないことなのですが、現実はまだ理解が浸透していないのですね。 盲導犬と比べると聴導犬は見かける機会がまだまだ少ないというのもあるのかもしれません。せっかくなので、安藤さんに聴導犬のお仕事についても教えてもらいました。
安藤さん「家の中では、朝起きるときのアラームや、宅急便など人が来た時のチャイムの音、冷蔵庫が開けっ放しだった時になる警告音や、携帯の音まで教えてくれます。もちろん、赤ちゃんが泣いている声なんかも伝えてくれますよ。 外でもあらゆる音を。後ろから来ている救急車のサイレンや、先日大阪で起こった地震のときは、携帯で緊急地震速報が鳴る前に教えてくれたんですよ。動物にだけわかる感覚があるみたいですね。 私の気持ちと一緒になっていろんな音を教えてくれる、自分の赤ちゃんみたいな存在です」 こうして安藤さんがお話をしている間も、足の下に静かに伏せながら目と耳はピクピク。しっかり状況をチェックしているのがわかります。か、かわいすぎる……が、お仕事中なのでなでなでするのは我慢です。
安藤さんの相棒、2代目聴導犬のアーミ。補助犬のケープをする犬を見かけたら、ぜひご理解を!
Bmapsでは、補助犬ウェルカムなお店の情報が投稿されています。 安藤さん「私みたいに断られてもお店に行ける補助犬ユーザーは少ないです。入店を断られるからってお店に行かない人や、犬を家に置いて行くという人も。 Bmapsを使って補助犬の受け入れに好意的なお店を調べることができて、またそんな店舗が増えてくると、ユーザーの世界が広がるのでとても良いですよね」
垣内さん「そういう意味では、車いすのほうがよっぽど楽かもしれません。街中にたくさんユーザーがいますし、店員さんも対応に慣れてきているので。今、車いすだから入店を断るという店は限りなく少ないです。 一方で、補助犬についてはまだまだ理解が足りていないので、補助犬の対応をするのは当たり前、ということを事業者側に周知していきたいですね。 いやー、皆さんのお話、ほんと勉強になります。 長くなったので、続きは後編で。Bmapsが仕掛けるバリアフリー意識の醸成と、今後の展望について聞いていきますよ!
Bmaps http://web.bmaps.world Bmaps杯特設サイト http://www.bmaps-event.jp
研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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