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第4回:そのお・も・て・な・しを疑え?!の巻

ぐろ │ 2018.09.03

第3回

mazecoze研究所をご覧のみなさんこんにちは、ぐろです。
2020年オリンピック・パラリンピック開催まで2年を切った今、世界からやってくる様々な人たちをどうもてなすのか、日夜考えているお仕事の方々もいらっしゃるのではと思います。
私、東京在住の車いすユーザーの目からみても、この数年で色々なものが整備されつつあるのを実感しております。

しかーし。
やはり中には「これ、違わない…?」と思う、謎な「おもてなし」もあったりするわけです。
例えばオリパラに向けて、最近配車数が増えている某タクシー。ユニバーサルデザインを謡い、荷物もラクラク置けて、車いすのままでも乗車できることがウリの1つですが。
実はこれ、スロープの出し入れに時間が掛かりすぎると、車いすユーザーからの評判がめちゃ悪い。そもそもメーカーがUPしている「車いす乗降方法」動画が30分の大作な時点で、そこを期待するのが無理な気も。
ロXXンタクシーからインスパイヤーしたのは、見た目だけだったか……。

こんな風に世の中、利用者のことを考えたつもりがズレている、ちょっと足りないという残念な物、サービスが、時にありませんか?
今回は私が街で見かけたそういう物件をいくつか紹介します。
(要は人様の努力にケチつける、という何様な企画です。それでも何かの役には立つかもと願いつつ、気を悪くする人もいらっしゃるであろうことを最初にお詫び致します。)

まずスロープ編

道路と歩道、建物の境に設けられた縁石。車いすユーザーにはこの縁石で生じる段差が厄介で。
例えば2、3cmぐらいの高さなら斜面に切り欠きを入れてくれると越え易くなりますが、車道などの高さのある縁石を切り欠いてあっても、傾斜がきつくて出来ない等、ケースbyケースで苦労しています。
また車いすのタイプで越えられる高さも異なります。
自分で漕ぐ(自走用)車いすだと、上肢の筋力があるユーザー用なので、高い段差も自ら前輪を持ち上げて(キャストアップ)乗り越えられる人も多々見かけます。同様に電動車いすで重量のあるタイプだと、前輪も大きくモーターに馬力があるので、10cmぐらいまではいける場合が多いです。
縁石に関して一番非力なのは私の乗っている簡易電動タイプ=通常の自走型に電動ユニットを載せている場合です。

簡易電動を前から見たところと、後ろの転倒防止バー(青)

そもそも自力で漕げない故の電動ですし、前輪を持ち上げたくても総重量は30kg弱。前輪は小さいままなので、2cm程度でも引っかかり易く、スロープがないと基本、段差は介助者任せです。
高い段差だとキャストアップして貰う時に、後ろの転倒防止バーが引っかかる事も……一人で気ままに出かけることを夢見て乗ったのに、思った以上に人の手を借りる場面が多いのが実態です。おお、我が自由を妨げるもの、その名は段差!

と、車いすごとの特性を理解いただいたところで、次の写真をご覧ください。

写真だと大した感じに見えないかもですが。
縁石、途切れたスロープ、石ころのコンビネーション物件です。スロープと縁石との位置関係は高さ15cm、一番広いところで20cm以上遠いです。
言い忘れましたが、石ころも車いすには相性最悪です。そもそも自走用の車輪は自転車と同じですから、想像できますよね。
まあ、よくもここまで厳しい条件を思いついたものだと、しばし感心してしまいました。
それでも手すりっぽいものは付いているこの「おもてなし」。これを完全攻略するエクストリームな車いす乗り、求む!!!(いえ、分かっているんですよ、台車用につくったんだろうと。でも私が台車を押す立場なら、間違いなく奥のコンクリートの叩きになっているところから上がりたいですね。)

では、こちらはいかがでしょう。
縁石は段差ブロックで解消している。その後もなだらかなスロープ。手すりも完璧。
ぐろよ、お前はこれにもケチをつけるのか!って思われるでしょうが、つけますよ、ええ。


こちらの施設、段差で危ないところには黄色の線を付け、歩行者に「気をつけて」と教えてくれています。

そういう目で見たら…分かりましたか?なだらかなスロープの最後に何故黄色の線。
これも写真は分かりにくのですが、スロープと玄関の叩きの間に3cmぐらいの段差があるのです。

いやいや、お前ら前輪上げられるって言ってなかった?ですって。
いえ、下が平坦ならキャストアップも可能ですが、斜面上で漕ぎながら前輪を浮かせるって、誰にでも簡単に出来ることとは思えないんですよね。
まして簡易電動でこのスロープを行くとなると、最初から押してもらって最後の段をどっこいしょしてもらうか、段のところまで電動で最後は手動に切り替えてどっこいしょか。
いずれにしろ介助者には慣性の法則に従い、車いす+私の肉感ボディの重さに耐えていただかねばならない苦役になること間違いなし。

余談ですけどこのスロープ、私の知る限り、この1年以内に新たに作られたものでして。
元の段差に合わせればいいだけのものが、こんなことになっているのは、計測間違えか、はたまた一番下の車用段差ブロックの傾斜に合わせたのか……。
本音をいうと車用段差ブロックって、載る度にガタついてあまり安全とも思えないのです。
かといえ、縁石から外は公道だから、建物から一体のスロープを設置するのは、法律的に難しいのかもしれませんね。
こういった問題こそ、国や行政がイニシアティブを持って解決するべき所じゃないか、とも思ったり。

躓きのない、なだらかなスロープは車いすユーザーだけが求めている物じゃございませんから。そうですよね?


次に多目的トイレ編


平成18年から施行されているバリアフリー新法では、公共の施設には車いすが利用し易いスペースを有するトイレとオストメイトの対応を設置することを定めています。これらを1つにまとめたものが多目的(多機能)トイレですが、他の設備については、各自治体の独自基準のようです。そのため地域により、たまに変わった工夫と出くわすこともあります。
例えばあなたはトイレの上に、こんなものがあったらどうしますか?

これは下に貼った画像のように使うため、付いているそうです。
「つりわを握れば、立ち上がりが楽ですね」「車いすの人も、両手を使えて便利ですね」とのこと。
筋トレ用と思ったあなた、不正解です。

しかしこの笑顔……こんな立ち上がり方を余裕でできるとは、相当の握力と腕力があると見た!
私のような上肢の力が全然ない人間からすると、みんながそんな芸当が出来ると決め付けないでよぉ、と拗ねたくなります。足腰弱った高齢者しか想定できなかった、「おもてなし」の悲劇です。

まあそれ以前にこのつりわトイレ、そもそものトイレのレイアウトに問題があり。
手前のでっかい物が、車いすが便器に寄ったり回転するのを、思いっきり邪魔しているような。

このでっかい物は、人工肛門、膀胱の袋(ストーマ、パウチ)の汚物流しです。
都市部でもまだ十分とはいえないオストメイト対応に文句はありませんが、車いすユーザーがトイレを利用するには便器前に最低でも150cm径のスペースが必要とされています。
どうしてこうなっちゃったのか……。



そう、汚物流しといえば、こんな笑みこぼれる(勿論嫌味)物件もありました。

分かりましたか?
施工の間違いと思われますけど、洗面台前の鏡が汚物流し前に付いています。
いまどきのはとてもおしゃれですから、知らないとそちらで手を洗ってしまう人も……。
あの、私告白しますが、女子トイレが並んでるとズルして多目的トイレを使う人とかいるんですよ。そういう人に待たされた時は、心の中で
「お前なんか汚物流しで手を洗っておしまい!おっほっほ!!!」
と呪いをかけることもあります。でもそうやって待たされた後に入ってみると、間違えて使っている人多数な感じに周りが濡れていたりして。自分にこんな潜在能力があったトハ(笑)。



いつぞやは高校生たちが、そこで頭を洗っているのに出くわした時は、もうなんとも。
「お待たせしてすみません」なんて爽やかに挨拶してくれたけど、それは……。


こういうところにある設備には1つ1つ意味がある事を、社会常識として知っておいて欲しいですね。
そして、そういうことを学べば、目的外で使えるところかどうかも、自ずと分かると思うんですけどね。

次が最後です。
それぞれに意味がある設備の中で、私がどうにも必要度の分からない物があります。

手すりのところにある、小さな手洗い。最近よく見かけます。
ある程度上肢、肢体の筋力がある人にはその場で手を洗えて便利なのでしょうが。
反対側の手を洗うために便座の上で体を捻るのが大変な私からすると、片手しかちゃんと洗えないし、これのせいで手すりの辺りが濡れていたり、写真にもあるように、ペーパーホルダー等の必需品が使いやすい位置から追い出されているケースもままあって

これって、いるの?

な、「おもてなし」No.1なのです。
手洗いがここしか付けられないならまだしも、ちゃんと洗面台もあるのですから。
本来の洗面が杖のユーザーも使いやすいような工夫があれば、これは不要なものになる・・・ってことはないですかね?
洗浄ボタンや緊急呼び出しボタン、トイレットペーパー、手すりと小さな手洗い、最新式では上手くレイアウトに収まっているのでしょうが、そうじゃないところでは、右倣え的設置でなく、今一度優先度を考えて導入いただきたく。

以上、私見にまみれた容疑物件を挙げてみました。

ここまで読まれて「それは違うよ、ぐろさん!」と思われた方もいるでしょう。私も自分の間違えは正したいので、ご意見いただけると嬉しいです。
また「こんな物件もありまっせ!」なタレコミも歓迎します。一緒に言いたい放題しましょう。

今回のコラム、公開後に諸般の事情(ドキッ)が出てこなければ、次回もこのネタで続けたいなぁ。
人にケチつけるって楽でいいや、とつくづく思う私であります。ではまた!

ぐろ

東京生まれ東京育ち。主婦、歯学博士、顔面肩甲骨上腕型筋ジストロフィーのお笑いコンビ「エログロナンセンス」のネタ担当、共用品ネットメンバー等々ジャンルの異なる肩書きが混在する奇跡のマゼコゼスト?趣味飲み歩き。

研究員プロフィール:ぐろ

歯学博士、共用品ネットM&Cプロジェクト元リーダー、お笑い芸人
歯学部最終学年に顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーであることが判明。
大学院を卒業した後、ユニバーサルデザイン系ボランティア団体共用品ネットにて視覚障害者に向けた触覚識別方法を提案するプロジェクトにリーダーを務める。その間、カードの触覚識別方式TIMのISO規格化(ISO/IEC 7811-9)に携わる。
近年は同病の仲間とお笑いコンビ「エログロナンセンス」を結成。ネタ担当。バリバラ(Eテレ)に数度出演。東京生まれ東京育ちの酒をこよなく愛するアラフィフ。

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