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IOTな授乳室が誕生! 完全個室のナーシングルーム「mamaro」を手がけるTrim長谷川裕介社長の人にやさしいインフラづくり【前編】

平原 礼奈 │ 2018.08.22

授乳室が動く!? スマートナーシングルーム「mamaro」の全容

こんにちはmazecoze研究所の平原です。
生後9ヶ月の娘にせっせと授乳する毎日、子連れで出かけるときにはまず授乳室の有無を調べる状況です。そんな中、知人から「動く授乳室みたいなのがあるらしい」という情報が届きました。
そんな夢のような移動式の居場所があるの? と調べてみると、Trim株式会社さんが開発した「mamaro」というプロダクトであることが判明。早速、お話を聞きに行ってきました。

Trim株式会社 長谷川裕介社長

当日は、Trim株式会社の長谷川裕介社長が、製品や開発に込めた思いについて直々に教えてくださいました。
はじめに長谷川さんが見せてくれたのが、うわさのmamaroです!

奥行き90センチ×幅180センチと想像していた以上にスリムで、部屋の片隅にあっても圧迫感がありません。外観には目を引く哺乳瓶マークと、色々な使用シーンがピクトグラムで描かれています。

あえて「男性可」のサインを表記する気くばりも素敵

長谷川さん「僕たちはmamaroのことを、授乳室ではなく “スマートナーシルングルーム”と言っています。授乳室と言ってしまうと授乳でしか使えないイメージがありますが、離乳食をあげる、オムツを替える、泣き出してしまった赤ちゃんを落ち着かせるなど、子供のケア全般を通じて活用してもらいたいと思っているんです」

ナーシングは、直訳すると看護や保育という意味。「赤ちゃんのケア全部OK」だったら、授乳をする母親だけではなく父親や、子育て応援中のお祖父さん、お祖母さんまで使える人の幅が広がりますね。

長谷川さん「そもそも授乳室って、男性が近づきにくいじゃないですか。オムツ替えスペースや赤ちゃん休憩室までは入れるけど、そこでさえ精神的に入りづらいという人もいます。でもmamaroは完全個室だから、パパもリラックスして子供と一緒の時間を確保できるんです」

完全個室で男性可だと、「ここから先はママにお任せ」ではなく、父親もしっかり育児に参加できて、めぐりめぐって母親も楽になって一石二鳥だと思います。

中はこんな感じ。ほっとくつろげます

それにしても「動く授乳室」と聞いて、カーテンで仕切られた簡易的なものを想像していたのですが、かなりしっかりとした作りです。我が家の場合、次女の授乳中に隣で待っている3歳長女が激しく動き、授乳室のカーテンがめくれそうになったりするので、この安定感は助かります。

使用中は哺乳瓶マークが光ります
中から鍵がかけられて安心
キャスター付きソファをつなげると、赤ちゃんのオムツ替えスペースとしても
コンセントまで!

一つひとつのスペックを見ていくと、かゆいところに手が届くどころか、至れり尽くせり感満載。
ところで、長谷川さんがおっしゃった、“スマートナーシルングルーム”の “スマート”とはどういった意味なのでしょうか?

長谷川さん「単純に持ち運びができるスマートさという意味もありますが、mamaroはいわゆるIOT(Internet of Things)なんです。内部にセンサーがついていて、使用状況や使用時間、使用人数の統計などを把握することができます」

なるほど、インターネットにつながる技術が搭載された、スマート家電などと同様の意味でもあったのですね。

長谷川さん「使用状況を把握することで、僕たちが作っているBaby mapというアプリと連動させて、離れた場所からでもmamaroの空き状況を確認できるようにしているんです。また、防犯上の観点から、入室後30分経つと弊社にメールで通知が来るようにしています」

上には表層温センサーが

長谷川さん「室内には体の表層温を計るセンサーを設置しており、将来的にはお子さんの体温を測定できて、熱があるようならモニターに近隣の小児科情報が表示されるというようなこともしていく予定です」

この白いのはマウス! これでモニター画面の操作ができる

赤ちゃんのヘルスケアができて、その日の状況に合わせた情報がモニターに表示される、いわばその人のためだけのメディアになるんですね。近未来的!

長谷川さん「体温だけではなく、身長体重も計測できて、成長記録をつけられるように、いま研究機関と共同開発をしていますよ。たとえば母乳を飲む前と後で赤ちゃんの体重を計りたいというニーズもありますよね」

母乳がちゃんと出ているか心配しているお母さんも多いので、ありがたい機能だと思います。mamaroを利用するたびに身体測定できると、子どもの日々の成長をより実感できますね。身長体重の測定は、今年中に某エリアで実証実験予定なのだそうです。

100人の赤ちゃんに対して1室の授乳室という現状

ここからは、長谷川社長がなぜmamaroを作ろうと思い立ったのか、聞いていきたいと思います。

長谷川さん「元々は“Baby map”というアプリを作るソフトウェアの会社でした。Baby mapは授乳室やおむつ交換台などの情報を、アプリの利用者が善意で投稿していくしくみです。このアプリを2年ほど運用して、授乳室に関する情報が蓄積されてきてわかったのが、100人の赤ちゃんに対して授乳室が1室くらいしか確保できていないという状況でした。これはすごく少ないなと。おむつ交換台は最近では男性トイレにも設置されていますが、授乳室はなかなかないですよね」

Baby mapでmamaroがある場所と使用状況を検索することができる

たしかに授乳室にたどり着いても並んでいて、お腹をすかせた赤ちゃんが泣いて母焦る、という状況はよくあります。圧倒的に数が足りていないのですね。

では「完全個室で可動式」という視点が生まれたのは、どういった経緯だったのでしょうか。

長谷川さん「約300人のお母さんに会って、どんな授乳室が必要なのかをヒアリングしました。そもそも数が足りていないという話から、使用中にカーテンがめくれてしまったとか、清潔な個室で安心して授乳したいなど、お母さんの声をもとに作っていったんです」

清潔な場所で授乳したいという気持ちはすごくよくわかります。「多目的トイレでどうぞ」と案内してもらうことも多いのですが、排泄するところで子供の口に入るものを与えたくないというのが本音だったり。
と、ここまで話をうかがって、私自身も授乳室にはあれこれ細かく要望があることに気がつきました。これまで選択の余地がなさすぎて、そんなニーズが自分の中にあったことに気づきもしませんでした。

長谷川さん「お母さんたちが気づいていないニーズから価値を生み出すということも考えています。たとえば、駅構内にmamaroを置いてみたらいいんじゃないかとか。そうすれば、電車から降りて街に向かう前に授乳を済ませられますよね。わざわざ遠くの授乳室を求めて彷徨う必要もないんです。意外にそういった要望はお母さんたちからは出てこなかったりします」

駅構内にmamaroがあったら便利だろうなー!

駅構内に授乳室なんて、それが実現したら、もっと気負わず街に出られて、母たちの活動範囲が広がると思います。ちなみに銀行などにはすでに設置されているらしい。すごいです。

長谷川さん「そもそもいまの世の中はお母さんたちに優しくないなって思うんです。これから社会を動かす若い命を生んでくださった方たちに対して、それはないんじゃないかなと。我々Trimは、世の中のアンバランスなことをちょうどいいバランスにしていく会社だと思っています」

使う人から導入する側のメリットまでしっかりデザイン

店舗側がmamaroを導入するメリットもしっかり提示

いまでは、全国22箇所(2018.7.30現在)の商業施設や自治体に設置されているというmamaro。可動式なので、リースやレンタルという形で貸し出されているのだそう。しかも金額は、ほぼ原価なのだとか。

授乳室を一から作ったら、それなりの費用にそれなりのスペースが必要ですが、mamaroは、幅180センチ×奥行き90センチあればOKで、月数万円からレンタルも可能とのこと(正式な価格はTrimさんにお問い合せください)

長谷川さん「商業施設が授乳室を導入するためには、CSRの一環だけではなく、お客様が増えて収益アップにもつながっていく、という導線を提示することが大事だと思っています。特に、いまの新しい施設では初めから授乳室を作りますが、もともと授乳室がない施設や小さな店舗では、後から授乳室を作ることが難しいですよね。そのスペースがあったらもう一席増やせる、テナントに貸していれば利益が出ると思うのも仕方がないですから。mamaroなら、自販機を置く感覚で導入できます。お客様の滞在時間はどのくらいで、何曜日の利用率が多いとか、お店にとって有益な情報も共有できます」

使う側と導入する側、どちらの使いやすさもしっかりと考慮して作られているんですね。

長谷川さん「僕らとしても、売っておしまいではなくて、永続的に運営していけるあり方を考えています。mamaroの中のモニターに様々な情報や広告を表示して、設置数が増えれば増えるほど、メディアとしての機能も高まる。そうしたビジネスモデルだからこそ、店舗さんにも安くリースできるんです」

「何より、mamaroが広がっていけば、お母さんたちが出かけられるフィールドが広がります。授乳室を探してから出かける、というのをしなくてもいい世界を作りたいんです」

後編では、長谷川さんとTrimさんについてさらに聞いていきます。

Trim株式会社

(撮影:木内和美)

研究員プロフィール:平原 礼奈

mazecoze研究所代表
手話通訳士
「ダイバーシティから生まれる価値」をテーマに企画立案からプロジェクト運営、ファシリテーション、コーディネートまで行う。
人材教育の会社で障害者雇用促進、ユニバーサルデザインなどの研修企画・講師・書籍編集に携わった後に独立。現在多様性×芸術文化・食・情報・人材開発・テクノロジーなど様々なプロジェクトに参画&推進中。

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