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第1回 働くために保育園を作った! 5児の母・菊地 加奈子さんの公私混同<後編>

mazecoze研究所 │ 2015.12.22

5人の子どもを育てる菊池加奈子さんは、特定社会保険労務士として、また保育園の経営者として、超多忙な毎日を送っています。意外にも、専業主婦だった時期が6年半もあったという菊池さん。子どもたちのために使っていた時間とエネルギーを仕事に向けたきっかけは、意外なところにありました。
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どんなに忙しくても、仕事と家族をつなぐ“拠点”があれば絆は深まる

さて、菊地さんが運営する保育園、「フェアリーランド」では、夕刻が迫るにつれ、子どもたちの構成が変わってきます。午後3時過ぎ、ふと保育スペースに目をやると、どう見ても小学生らしき数人が…。
実は、柔軟性が身上のフェアリーランドには、他園や小学校に通う保育スタッフの子どもたちが集合してくるのです。子どもたちは、働く母の背中を見ながら宿題をしたり遊んだりして過ごし、親の仕事が終わるのを待って家族みんなで帰宅します。

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もちろん、菊地さんファミリーも例外ではありません。
数年前から、事務所のバックオフィスを旦那さんが一手に引き受けるようになり、フェアリーランドは名実ともに菊地家の拠点になりました。朝は7人で登園してからそれぞれの学校や職場に向かい、夕方になるとこの園に集合して仲良く全員で帰途につくのです。

学齢の違う子どもが2人以上いると、複数の保育園と学童保育の「お迎えのはしご」で四苦八苦したりするけれど、そういう問題もここでは当たり前のようにクリアになっていて、「子育てのしやすい国っていうけれど、どうして日本ではこういう光景が当たり前にならないんだろう…」なんて、maze研メンバーは思わず考え込んでしまいました。

「会社をやめていいよ」と妻が夫に言ったっていい

卵巣嚢腫を患い、子どもをあきらめかけていたところに授かった長女。続いて、2女、3女と誕生し、彼女たちが愛おしくて子育てに専念していた時期もあったという菊地さん。社労士となって再び働き始めたのは、旦那さんが職場でパワハラを受けたことがきっかけだったそう。
「家庭を顧みることを良しとしない古い体質の勤務先が、執拗な嫌がらせをしてきたんです。でも、経済力を持っていなかった当時の私は、苦しんでいる夫を毎朝送り出すことしかできませんでした。その無力さに嫌気がさして一念発起、労働法などを調べつくして会社の責任を追及したんです」
まさに、災い転じて福となる。この勇気ある第一歩が、その後の菊地さんと家族の暮らしぶりを大きく変えることになるのです。

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実は旦那さん、4女(第5子)を授かった際も、子煩悩に由来するハラスメントを受けています。転職先で管理職にまで昇進したというのに、育休を取得するとあからさまに左遷されてしまったのです。けれど、社労士資格を取得してすでに5年。そのときの菊地さんは、もう自分の無力さを嘆く妻ではありませんでした。
「『それなら会社をやめていいよ。一緒に仕事しよう?』と夫に言えた時は、ちょっと爽快でしたね。自分が変わったんだという実感、家族のピンチを支えることができる自分に対して、うれしさがこみ上げてきたのを覚えています。(前回パワハラを受けた)5年の間に、あまり世の中が変わっていなかったことへのガッカリ感はありましたけどね(笑)」

一時期は、専業主婦になったことを後悔したこともあったそうですが、「専業主婦経験があるからこそ、結婚しても出産しても働き続けることの大切を知ることができた」と思えるようになったとか。
「子どもたちとべったり過ごせた6年半は今でも宝物ですしね。とはいえ、やはり仕事はやめないほうがいいですよ。万一、家族がピンチになっても、仕事さえあればいろいろな面で支えてあげられますから」と、菊地さん、力説です。

信頼できる“同志”が見つかれば働き方はもっと自由になる

旦那さんと一緒に仕事をするようになってから、菊地さんは、いっそう自由なワークスタイルを満喫していると言います。
「以前、夫婦で別々の仕事をしていた時は、大きな仕事の依頼が来ても躊躇していました。何かあれば、自分が子どもたちの世話をしなければいけないし…と。でも今は、末っ子がまだ1歳であろうとやりたいことにどんどん挑戦できます。それは、夫が一緒に頑張ってくれることもありますが、同じ思いを持つスタッフが集まってきてくれたからでもあります。『同志がいる』ということが心強く、安心して仕事をシェアできるから、心がとても軽いんです」

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今、菊地さんは、自分の子どもたちがサービスを利用できる年齢のうちに、思い描いている子育て支援事業をすべて実現しようとターボをかけています。その理由は、「母としてはやっぱり、自分の作ったしくみは自分の子どもに一番に利用してもらいたいですからね」というもの。
「究極の公私混同ですね」と水を向けると、「だって、私がそもそも働きたいと思ったのは、自分のため家族のためですから」と笑顔。
それから、少し真剣な表情になって、大切なことを教えてくれました。
「自分のために頑張れない人が、人のために頑張ることなんてできないと思うんです。自分のために頑張ることが、人のため社会のためになる。私にとっての幸せって、そういう働き方ができることなんだなと、最近しみじみ思います」

菊地さんが話す、「仕事で目指す幸せの形」は、彼女のホームページにもはっきりと明文化されていました。私たちmazecoze研究所の理念にも通じるとてもステキな言葉なので、最後に引用させてもらいました。

子どもがたくさんいても自分の人生を切り開くことができる。

個人事業主・経営者・管理職・・・責任のある仕事をしていても妊娠・出産というライフイベントを心から喜び、仕事を続けながらも幸せな家庭を築くことができる。

多様な働き方の選択により、自らライフプラン、キャリアプランを立てることができる。

そんな風に思える人たちが一人でも増えるように、自ら実践・経験を積み、たくさんの人たちの思いを“カタチ”にしていきたいと思っています。

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(撮影:荒木 理臣 取材・文:阿部 志穂)


プロフィール:菊地 加奈子(きくち かなこ)さん
神奈川県生まれ。大学卒業後、総合商社の子会社から大手銀行の教育研修機関を経て、出産を機に退職。3人の女児を授かった6年半の専業主婦期間中に社会保険労務士資格を取得し、合格直後の2010年、個人事務所を開業。「ワークライフバランス支援」を得意とし、顧問先企業で就業規則や賃金規定の作成・見直し、人事制度考案など幅広い業務を行う中で、企業側には女性活用プランニングの提案、働く女性側には両立支援なども提供する。2013年「育みの家 フェアリーランド」を開園し、自らの職住近接も実現。2014年夏に第5子を出産し、1男4女の母になった。
>特定社会保険労務士 菊池加奈子事務所のホームページはこちら

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