MENU SEARCH

mazecoze(まぜこぜ)研究所は、いろんなものの境界線をまぜこぜにしながら、未来を拓く働き方・暮らし方のヒントを探る知恵の場です。

第12回: 今年は引越・入学・転園・開業・出産!(後編)

Share on FacebookTweet about this on Twitter

こどもがこどもらしくこどもでいられる時間

私たちが三軒茶屋からここ山梨県北杜市に移住を決めた時、たくさんの方から「なんで移住先を山梨にしたの?」と聞かれました。「東京から車でも電車でも2時間以内なので、既存のお客さまも訪れやすい」「日本ワイン専門店だったので、山梨という日本ワインのメッカに近くなる」「自然栽培のお野菜をつくる素晴らしい農家さんがいらっしゃる」などビジネス的な理由もありましたが、最大の決め手は「こどもたちの成長の場として最適ではないか」という判断でした。

当初は長男が小学校に上がる前にお店と自宅を移転しようと考えはじめたことから、結果、山梨移住へと話が発展したのですが、こどもたちが小学校、中学校と成長していく過程で、学童からPTA、いじめ、習いごと、宿題、学力……など、自分が今後の子育てで、私やこどもたちが何を課題にして格闘していくのかが見えてつまらなくなったというのも大きかったのです。

労働と消費の激しい東京での生活では、子育てと仕事の両立という課題がどうしても肥大ぎみになりがちです。日本の学校は行事も多いし、小学校に入ると宿題も多く、保護者会やPTAなど親の出番も多い。そのうえ、習いごとをさせようとすると、仕事との両立もさらに大変になってくる。想像するだけで、なんだかな……と気が重くなり、遠い目になりました。

決定的だったのが、こどもたちが通っていた保育園の卒園生を見た時でした。保育園時代あんなにやんちゃだった男の子が小学生になったらシュンと小さくなっている。女の子たちはなぜ?と思うほど女っぽいというか、艶っぽくなっていて、そのこどもたちの変化に驚きました。そして思ったのです。もしかしたら、こどもがこどもらしくこどもでいられる時間はとっても貴重なのではないか、と。

将来、学力の高い高校や大学へ進学したり、大手企業に就職するために、小学校を受験させたり、そのための習いごとをさせるといった発想は、私たち夫婦にはまったくありませんでした。それよりも、こどもたちがこどもらしくこどもでいられる時間の確保には、投資をする価値があるのではないかと思えました。

学校説明会に参加した際、生徒さんがつくられたと思われる丸太のブランコが付いたジャングルジムで遊ぶ長男の和作。いつだったか和作が「(入学したら)壊れていたブランコを直したいんだけど、おれはまだ小さくて直し方がわからないから、南小学校で直し方を勉強したい」と言うので、「おまえスゴいな!」と思わず口から出た

そんな時に出合ったのが学校法人きのくに子どもの村学園の山梨校「南アルプス子どもの村小・中学校」でした。このきのくに子どもの村学園は和歌山で誕生した私立学校で、現在、和歌山のほか福井県、山梨県、福岡県に小・中学校があリ、和歌山には国際高等専修学校もあります。

「まずは子どもたちをしあわせにしよう。すべてはそのあとに続く」というイギリスの教育家A.S.ニイルの言葉をスローガンに、自由なこどもを育てることを大切にした学校で、宿題がない。テストもない。「先生」と呼ばれるおとなもいない(おとなは「さん」付けやニックネームで呼ばれます)。完全縦割りクラスで、何年生という概念もない。

授業の多くは「プロジェクト」と呼ばれる体験学習にあてられ、ちなみに、2016年度の南アルプス子ども村小学校のプロジェクトを学校のホームページで見てみると、「クラフトセンター(建築・木工など)」「むかしたんけんくらぶ(布、養蚕など)」「おいしいものをつくる会(料理・農業など)」「劇団みなみ座(劇・表現など)」「アート&クラフト(おもちゃづくり・木工・園芸など)」と説明がありました。とっても楽しそうですよね? そうなんです! だから、私はこの学校を知った時、まず私が行きたい!と思ったのでした。

教育の場は生きる力を減少させていないか?

昔、テレビのドキュメンタリー番組でカナダのある小学校を取り上げていました。そのカナダの小学校が特別なのか、カナダの小学校全体の教育がそうなのかはわかりませんが、その番組ではカナダの小学校ではたとえば「カンガルー」といったひとつのテーマで一定期間学ぶのだと解説していました。

どういうことかというと、国語ではカンガルーという言葉の意味や由来を、算数ではカンガルーの高さは重さなどから数字を、社会ではカンガルーが生息している地域はどういう場所なのかを学ぶといったものでした。なるほど! ひとつのテーマでもさまざまな角度からものを考えることができる。これぞ学びだ!ととっても感動し、いつかそんな素晴らしい教育を行っているカナダに行ってみたい。そう思ったことをずっと覚えていたのでした。

そこから時は巡って、きのくに子どもの村学園を知った時、日本にもテレビ番組で見たカナダの小学校と同じような考えの小学校があるんだ!と心が震えたのでした。


国語や算数、社会、理科……といった科目は、あくまでも人が生きるための知識や技術、リテラシーといったものを科目として体系化したものでしかないんですよね。

人がよりよく生きていくためには「自己を肯定して互いを認め合う心」「知的好奇心への欲求」「自己で考えて決定する力」といったことが大切なのではないかと私は考えているのですが、これらっておとなよりも全然こどものほうが持っているんですよね。私よりもうちのこどもたちのほうが断然持っていると実感します。

そんな産まれた時から持っていた生きる力が、教育という場に入っていくことで鍛えられるのではなく、逆に失われていってはいないだろうか。そんな危惧が私にはあったので、カナダの小学校を知った時に感動し、日本にもこどもがこどもらしいままでいられる学校があることにまた心震えたのでした。

校舎の廊下兼図書室!? 昼休み、生徒のみなさんは床に座ったり、イスに座ったり、向かって左側にあるガラス張りの職員室のなかでくつろいだりしながら、思い思いに読書を楽しんでいた

体験入学で人が変わった長男

とはいえ、情報だけでなく、まずは学校を見てみないと実際がわかりませんし、うちのこどもが学校を気に入るかどうかが一番大事。子どもの村学園の入学の第一条件も「こどもが学校を気に入って、こども本人に入学したい意志があること」とあり、入学するには学力テストなどの試験はないのですが、2泊3日の体験入学をすることになっていました。

長男の和作(わく)とあずさ号に揺られて、南アルプス子どもの村小・中学校の見学会に行ったのは、三軒茶屋のお店を閉めた翌月くらいだったような気がします。うちの長男は人が多いところやちょっと大きいお兄さん、お姉さんがいると引いてしまって、その空間に入ることさえ嫌がる時もあるので、大丈夫かしら?なんて思っていました。

ですが、学校についてご説明してくださる説明会はつまらなくて抜け出してしまったものの、校庭を走り回ったり、きっとクラフトセンターの学生たちによって手づくりされたジャングルジムのような遊具には楽しげに登ったりして楽しんでいるし、小・中学生がいる校舎の中にもどんどん入っていって、広くて木の床、両サイドに本棚がつくられた廊下に小学生のみなさんと混じって一緒に座って、図鑑を広げて見たり。実にそこに馴染んでいて、「いつからおれ、南小学校に行けるの?」と言うほど。

私は私で、この学校に通っているこどもたちのキラキラした目と自立した様子、それでいて困っている子にさっと手を差し伸べているやさしさに感動。また、昼休み、職員室の中でたくさんのこどもたちがくつろいで本を読んだり、教員の方とお話している様子にも驚き、やっぱり私もこの学校に行きたいなぁと思いました。


10月末、和作は2泊3日の体験入学をしました。学力テストなどの入学試験は特にないのですが、この体験入学によって合否の内定が出ることになっています。

実はこれが彼にとってはじめて親元を離れてのお泊まりでした。「夜、寂しくて泣くかしらね?」などと教員のみなさんと面談の際にお話していたのですが、そんなおとなの心配は杞憂に終わりました。帰ってきた彼は顔つきもなんだか凛々しくなっているし、3日間でどんなことを体験したのかとおしゃべりがエンドレスで、そのイキイキぶりに次男の穂作は気後れして泣いてしまうほど(笑)。

当初、この学校に入れなかったとしても、北杜の自然豊かな環境で幼少期・青春期を過ごすだけでもきっとこどもたちにはいいはず。そんな思いで、先に移住してしまいましたが、実際に体験入学をしてますますこどもたちが大好きになった学校に入れなかったとしたら、うーん、私は息子にどう説明したらいいだろう?と考えたのですが、12月はじめ、無事内定の通知をいただき、和作と興奮しました。そして、次男の穂作は「おれも行ける?」というので笑ってしまいました。あなたはまだ2年先ですから。

学校の廊下の途中に設置してあったボルダリングにチャレンジするものの、なかなか手が届かない。それを見ていた在校生のお兄さんが助けてくれた。普段、大きいお兄さんには怖がったり照れたりしがちな和作がこの時はとってもなついていた

存在するだけで人には個性がある

きのくに学園を語る時、個性的な子が入る学校と思われているところがあります。かくいう私も当初そうでした。際立って個性的な子が入る学校かしら?と。そうすると、慎重派な長男は難しいかな。ちょっと待てよ。個性的って何なんだよ?

思えば、私は個性という言葉と戦ってきたような気がしています。小学校高学年の頃、「プッツン」なんていう言葉が流行り、「プッツン女優」など個性を揶揄する言葉ができたりと、人と違うことはいけないような風潮が生まれ、こどもたちの間でも「変な子」「プッツンな子」という揶揄がありました。

どういう場面なのかはわかりませんが、私はよく「“変わっている”と“ふつう”は同じなんだ」と風潮を批判するようなことを言っていたらしく、小学校のアルバムにあるお友達のメッセージに、よくそう言っていたことが印象的だったと書いてあり、「そんなことよく言う小学生、そりゃいじめられるわ」と大きくなってアルバムを見た時に笑いました。

それから時は立ち、SMAPは『世界に一つだけの花』と個性的であることを賞賛する歌を歌い、ナンバーワンよりオンリーワンと際立って個性的であることが素晴らしい時代になっていきました。

私はどちらにもずっと違和感があり、個性ってなんだろう? 個性的ってどういうことだろう?と、ずっと心の内と戦ってきたような気がしています。

参加した秋の教育講座で滝内大三さんが個性についての解説で出されたスライド。心から共感した。親になると、こどもの「得意」「好き」「持ち味」を探して生かしてあげたいなんて考えがちだけど、そんなことにやっきになるより、その子のありのままを受け止めてあげるほうが、自由にこどもが自分を生きられるのだよな、などと思った

9月、一般の方を対象とした教育講座が南アルプス子どもの村小・中学校であり、参加しました。そこで、大阪経済大学名誉教授であり、きのくに子どもの村学園理事でもある滝内大三さんのお話が染みました。

「存在するだけで人には個性があり、その子そのままのありのままが個性」なのだと。とってもシンプルな言葉ですが、私の心にずっとあった積年の疑問を溶かしてくれるようで、ストンと心に落ちました。その言葉を聞いて、この学校は際立って個性的であることを賞賛するのではなく、こどもであるその子そのままの個性をそれぞれ受け止めてくれる学校なのだと安心し、日本の小学校はすべてこんな学校だったら、どんなに素敵だろうと思いました。

そして、この学校にお子さんふたりを通わせ、この講座にも参加されていた方に、幼少期から自分がもがいていたことが溶けるようだったとお話したら、「自分がこどもだった頃の葛藤から解き放たれることが、こどもの自由につながるのかもしれないと、この学校にいるとよく思う」と言われ、とっても腑に落ちたのでした。

だから、この学校との出合いは、こどもの進学だけに話はとどまらず、私自身が長年感じていた息苦しさや違和感からの解放でもあり、私の新たな学校への入学とも思っているのでした。

石田 恵海(いしだ えみ)

1974年生まれ。オーベルジュ開業準備中&編集ライター
「雇われない生き方」などを主なテーマに取材・執筆を続けてきたが、シェフを生業とする人と結婚したおかげで、2011年に東京・三軒茶屋で「Restaurant愛と胃袋」を開業。子連れでも楽しめる珍しいフレンチレストランだと多くの方に愛されるも、家族での働き方・生き方を見直して、2015年9月に閉店。山梨に移住し、新たにオーベルジュとして開業する準備に、3歳と4歳の年子男子のかあちゃんとしても奮闘中!
Restaurant 愛と胃袋

Share on FacebookTweet about this on Twitter
キーワード:働き方, 子育て, 暮らし
研究員の記事を読む
2017.07.14
第13回: 素晴らしき八ヶ岳店スタート&出産カウントダウン!
2017.02.03
第12回: 今年は引越・入学・転園・開業・出産!(後編)
2017.01.27
第12回: 今年は引越・入学・転園・開業・出産!(前編)
2016.10.12
第11回:自分らしくあれる大地
2016.09.10
第10回:自立と成長のこどもたちの夏
さらに見る
ページトップへ戻る