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mazecoze(マゼコゼ)研究所は、いろんなものの境界線をまぜこぜにしながら、未来を拓く働き方・暮らし方のヒントを探る知恵の場です。

第9回:土と水と植物と身体と

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7月23日から60万本のひまわりの花が咲き乱れる「明野サンフラワーフェス」がはじまり、静かな明野にたくさんの人が訪れている。その様子を私たちも見に行ってきた(写真左)。海のない山梨のこどもたちの水遊びといえば川遊び! 水が透き通ったまさに南アルプスの天然水である尾白川が楽しい!(写真右)

義妹に4人目の子が授かり、4人か、スゴいな、かっこいいなぁ、と思っていた矢先、ぽっと私に3人目の子が授かりました。
長男が授かった時ははじめのことだったので、戸惑いがまず一番にあり、次男が授かった時は、後述しますが、ショックが先でした。3人目となると、先が想像できるという意味で、慣れたことなのかもしれません。今回はじめて手放しで、子を授かったことを喜べる自分がいました。
しかし、残念ながら、7週目にして、彼ないし彼女は天に召されてしまいました。今日はその生命と自然との話を書きます。

3人目で「天使の輪」の存在を知る

かつて、次男が授かってはじめて検診に行った時は、4週目くらいだったでしょうか。まだ黒いかたまりがちいさく見えるだけでした。
当時、三軒茶屋でお店をはじめて3カ月で、長男は生後8カ月ほど。一時保育を活用したり、時には息子を背負ってホールに立ちながら、自分たちの力のなさをひしひしと感じている時だったのです。
もう少しで息子も乳離れする。そうしたら、日本ワインの勉強をもっとしよう! そんなふうなことを考えている矢先に次男が授かったことがわかり、ショックを受けている自分に出会いました。喜ぶべきことなのにショックを受けている自分自身にショックでもあり、お店のスタッフから「赤ちゃんできたこと、恵海さんがあまりうれしそうじゃないんだよね、とシェフ(夫)が心配していましたよ」と聞いて、ますます落ち込むばかりだったのです。
ところが、2週間後あたりに次の内視鏡検査に行くと、前回は黒いかたまりでしかなかったものの中に、激しく動く白い心臓が見えました。その笑っちゃうくらいの元気良さは、今の次男、穂作そのものなのですが(笑)、激しい生命の鼓動を見て、何を私はショックなんか受けていたのだろうかと、邪念のようなものが一気にふっ飛んで、わんわん泣いたことを記憶しています。

翻って、3人目。最初の検診は授かって推定4週間。次男の時と同じように黒いかたまりが小さく見えたのですが、その翌週の検診では内視鏡のモニターに、明らかに長男の時にも次男の時にも見たことのない白い輪っかが写っていたのです。
それは「卵黄嚢(らんおうのう)」というもの。通称「天使の輪」とも言うそうです。ですが、私は恥ずかしながら、3人目にして私ははじめて、この卵黄嚢という存在を知り、赤ちゃんは胎盤ができるまでの間、この卵黄嚢から栄養をもらって成長するのだということも知りました。その卵黄嚢が今回どうもとっても大きいらしいのです。
それはどういうことか。この卵黄嚢が大きいと、卵黄嚢から赤ちゃんへの栄養がなかなか行きわたらず、赤ちゃんが成長できずに亡くなってしまう可能性がある、ということなのだそうです。産婦人科の医師からそう聞かされ、2週間後の検診で結論は出るのではないか、ということになりました。

次男の時とはまた種類の違うショックに打ちのめされ、夫に電話するも、鮎釣りに夢中で出ないし(苦笑)、母親に電話するも、もし出産できても障害のある子になる可能性もあるのではないかと言われ、こちらは命がつながるかどうかで胸が押しつぶれされそうな気持ちでいるのに、だったらナニ!?と、私はその無神経さに腹が立って腹が立って、途中で電話を切ってしまいました。孤独でした。

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こどもたちははじめての手持ち花火に感激! そして自家菜園でははじめてのプチトマトの収穫。結局、種から育てることに失敗したので、オーガニックの苗をマルシェで買ってなんとか育てた

サキちゃんにフォースを!

北杜市は、なんと産婦人科がひとつもない土地です。助産院があるので出産は問題ないのですが、検診などでは甲府あたりまで足を伸ばさないといけません。自動車でのひとり孤独な帰り道、ナビをしてくれるGoogle先生は、なぜかこの日は信号も他の自動車の通りも少ない緑多き山道をナビしてくれました。
誰も気にすることない自動車のなかで、だらだらだらだらと、それをぬぐうことなく涙を流し続けながら運転する私を、雨上がりで増した土と緑の香りが、やさしく抱いて家まで導いてくれているように感じました。

3人目ができたことを、ふたりの息子は、こちらの想像以上に感激して受け止めてくれていて、長男は赤ちゃんに「サキちゃん」という名前を付けてくれたし、次男は急にお兄さんになる自覚のようなものが芽生えている様子でした。
それだけに、何とか命をつなげないものだろうかとググってみると、卵黄嚢が大きいことで赤ちゃんを心配する、まさに今の私と同じ女性たちがそこにたくさんいました。
ですが、なかなか光になるような事例は見当たらず、また卵黄嚢が大きくなる原因はいまだ解明できていないそうで、いよいよ覚悟はしておかないとな、と思うと同時に、東洋医学のアプローチで何か状況が少しでも好転することはないだろうか?と最後までジタバタしてみようと、自然療法の施設で検査などしていただくも、心身共に非常に健康で、ストレスがないに等しいくらいで笑ってしまいました。
提案いただいた食事法も普段気をつけている内容とそう変わらず、為す術のなさに、お風呂でこどもたちに「サキちゃん、大きくなれ! 大きくなれ!」とフォースを送ってもらって、神頼みするくらいしかできない日々を送っていました。

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朝から「今日は田んぼしないから宣言」していたこどもたちは虫取りに夢中! とかげを間違えて「あっ、カメレオンだ!」という長男の声に、手除草をしているおとなたちが田んぼでじわじわ笑う。みんな、腰を浮かせて作業するなか、ヒザを付けて四つん這いで手除草する私(写真右)

田畑には奇跡も死も競争も愛もある

そして、シェア田んぼの集まりの日のこと。この日は田んぼの稲の間に生えている水草を手で抜き、稲の周りをひとつずつなぜることで細かい雑草を取る「手除草」を行う日でした。手除草なんて聞くと、非常に地味な作業に思えるでしょうが、実際に体験してみて、田んぼは田植えよりも除草だな!と実感するほどでした。
最初はしゃがんだ状態で一列除草をしたのですが、内ももにめっちゃくるのです。効くな、これ!と思って、シェア田んぼの楠瀬隊長のヒザを田んぼにガッツリ漬けた「四つん這い方式」で除草している様子を見ていると、とっても体が楽そうで、しかもむちゃくちゃ気持ちよさそうなのです。
よし、今日はドボンしちゃおう!と隊長方式で四つん這いに。うわっ! やっぱり水と土、気持ちいいー! ずんずんずんずん前に進んで、折り返してまたずんずんずんずん前に進む。そのうち、プールで足を付けずに1km泳ぎ超えたあたりに入る、この先どれだけでも泳げそうな無心状態と同じ感じになりました(わかる方がどれだけいらっしゃるか、非常に不安なたとえで恐縮ですが)。一種のトランス状態ですね。そのうえ、どんどん気持ちよさが増してきて、水、土、稲、肉体が一体化して、すべてを抱きしめたくなるような感じといったら、もっと伝わらないでしょうか? とにかく気持ちいいのです(後に、自然農法家の方が手除草は瞑想と同じ状態になって心身に良いと書かれているのを読み、激しくうなずきました)。
その瞑想状態で思いました。ありのままを受け入れよう! 次の検診で、奇跡的に卵黄嚢が小さくなって赤ちゃんが成長しているかもしれない。医師の言ったとおり、やっぱり赤ちゃんは成長することをやめているかもしれない。そのどっちも自然のことなんだよな、と。田畑には、奇跡も死も競争も愛もすぐそこにある。水と土と植物に触っていると、それらはふつうのことに思えるのです。

7週目の検診で、赤ちゃんがやはり成長をやめていると医師から告げられた時、その言葉を、その状況を、静かに受け止められました。
その帰りに保育園にこどもたちを迎えにいって、車の中で「今日お医者さん行って検査したんだけど、サキちゃん、やっぱりお空に帰っちゃったんだって」とこどもたちに伝えました。すると、長男から「ママ、泣いた?」と聞かれたので、「今日は大丈夫だったよ」と答えました。そして、じっと私の顔を見てずっと話を聞いていた次男は、微笑みながら私の頬をやさしくなでてくれました。この人たちは神か!?と思いながら、私はこどもたちをギューギュー抱きしめ、そして車のエンジンをかけ、我が家に向かって走り出しました。
鈴木サキ、享年7週間。2016年7月、我が家にとって忘れられない夏になりました。

石田 恵海(いしだ えみ)

1974年生まれ。オーベルジュ開業準備中&編集ライター
「雇われない生き方」などを主なテーマに取材・執筆を続けてきたが、シェフを生業とする人と結婚したおかげで、2011年に東京・三軒茶屋で「Restaurant愛と胃袋」を開業。子連れでも楽しめる珍しいフレンチレストランだと多くの方に愛されるも、家族での働き方・生き方を見直して、2015年9月に閉店。山梨に移住し、新たにオーベルジュとして開業する準備に、3歳と4歳の年子男子のかあちゃんとしても奮闘中!
Restaurant 愛と胃袋

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