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mazecoze(まぜこぜ)研究所は、いろんなものの境界線をまぜこぜにしながら、未来を拓く働き方・暮らし方のヒントを探る知恵の場です。

第6回:生産者巡礼と涅槃(ねはん)修行

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笛吹市を拠点にするカルタファームの夏井秀和さんと(写真左)。点々とした場所になる畑はどこかおおらかで自由な雰囲気が漂っていた。戸塚醸造店(写真右)は水に米に菌に伝統製法にこだわるお酢の専門店。吉祥寺にあるオーガニックレストラン「タイヒバン」オーナーの森本桃世さん(前中央)に案内していただいた

今もっともPUNKはオーガニックなものづくり

前回のコラムでも少し触れましたが、春になってから精力的に山梨県内の生産者巡りを行っています。三軒茶屋時代からお付き合いのあった方、ご紹介していただいた方、こちらに来てから知り合った方などいろいろですが、人に個性があるように、畑の姿もそれぞれ十人十色なのがとっても面白いです。

私たちがお邪魔している生産者さんの多くは、基本的に農薬や除草剤、化学肥料、動物性肥料を使わず、固定種(在来種)の自然栽培をされている方なのですが、その畑の様子は生産者さんの人柄が出るのか顔つきが全然違うのですよね。おおらか、几帳面、自由奔放な感じなどなど。そして共通するのは皆さん、チャレンジ精神が旺盛だということです。

書く仕事は書いても不出来と思えば、すぐ消すことができます。料理も味付けを失敗したら、すぐつくり直すことができます。作物はそうはいきません。たとえば、トマトの苗は春に植えて、夏に収穫しますが、それが上手く育たなかったら、次にチャレンジできるのは翌春になるのですよね。ひとつの作物に対してチャレンジできるのは年に1回だけということ。圧倒的リスクが伴うわけです。

だったら、挑戦よりも安定重視の生産になっておかしくないと思うのですが、ショップを開設されたり、無農薬栽培が難しいといわれる果実の無農薬栽培をはじめたり、クラフトビール醸造をしようと、在来種のホップ栽培からはじめられたりと、皆さん、何かしら新しいことにチャレンジされているんです。作物だけでなく、有機素材を使った伝統的な製法で酢や味噌づくりを行う生産者さんのところにも伺いましたが、同じくとってもチャレンジ精神旺盛です。

化学の力に依存した大量生産の産業ではない、自然と共存して生物の命を継いでいく「手仕事」の生産にたずさわるということは、今もっともパンクでかっこいいことだと私は思っているのですが、その尊い生産活動を持続可能なものにするには、手仕事で生まれた商品をまっすぐ評価し、買い続けること以外に他ありません。

飲食店やショップは生産者さんから受け取ったバトンを最終的な消費者に渡す役目。商品の魅力を最大限に生かす料理にしていくことはもちろん、時に語り部であり、時に営業マンであり、時には生産者さんに提案して一緒に新しいものを生み出していくプロデューサ的な視点も持ち合わせながら、私たちがいいお店づくりをして、お店のファンを増やして、お店を継続していくことが何よりも貢献なんですよね。毎回、生産者さんのところにお邪魔するたびに何かしらの発見と学び、そして緊張感をいただいています。

米粉パン

島根県邑南町にある障害福祉サービス事業所「はあもにぃはうす」さんの米粉パン。おやきのようなマフィンのような風貌に意外性があり、さらに外サクッの中もちもち。三軒茶屋のお店ではベビーから高齢者までみんなに愛されました

お店の継続が貢献になることを体感

夫が三茶時代にお世話になっていた生産者の皆さんに、つい先日連絡をした時のことです。

「ウェルフェアトレード(「Welfare=社会福祉」と「Fair Trade=公正な取引」を掛け合わせた造語)」といって、障害者や仕事や家を失った被災者、在宅のケアラー(介護者)や母子父子家庭、児童養護施設の退所者で行き場のない若者など、社会的弱者といわれる人たちがつくる製品やサービスを適正価格で購入することによって「彼らが働くことに生きがいと喜びを得て、自立できることを支援する仕組み」に私たちは賛同して、ウェルフェアトレード食材を積極的に仕入れていました。

なかでも、お店の絶大なる人気を誇っていたのが、島根県邑南町の障害福祉サービス事業所「はあもにぃはうす」さんがつくっていた「米粉パン」。障害のある人がつくっているパンだから注文する、というお客さまは、ほとんどいうかひとりとしていませんでした。おいしいから注文するという人だけ。おいしいからお持ち帰りまでするという人だけ。「美味しいですね」とお客さまから言われたら、「実は……」と障害福祉サービス事業所でつくられていることをはじめとしたそのストーリーをお伝えしていました。

それだけ多くの人に愛されたパンだったので、私たちが三軒茶屋のお店を閉めたことで、はあもにぃはうすさんで働かれている利用者の皆さんはどうしているだろう。うちがなくなったことでパン製造にかかわっている人たちはヒマになっていないだろうか。いやいや、そこまではないはず。それは驕りでしょう! などと、毎月送ってくださっている会報誌を拝見するたびに気になっていたのです。

夫に聞くと、私たちがお店を閉めたことで、パン製造事業自体がほとんど活動していないそうなのです。ショッキングでした。三茶のあの15坪の小さなお店が、ひとつの障害福祉サービス事業所の一部門を担っていたのかと。もちろんこの後、新しくお店をはじめたら、引き続きパンの製造をお願いするつもりでいるのですが、これまで以上に責任感を背負ってお付き合いしたいと思っています。

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庭の通称「ママの畑」は春菊と小松菜がもりもりと育ってきて初収穫。自分で育ててみて、あらためて「野菜の美味しさは土にある」というのは本当だなと実感。うちの痩せた庭の土だと野菜の新鮮さはあるもののプロの自然栽培の生産者さんが育てるしっかりとした野菜はさすがに出ない。実践してわかったリアルはやっぱり大切!

「いつまだはよ」=「いつかまたそのうち」

「いつ?」「まだ?」「はよ!」、これらはFacebookなどのSNSで私たちが時々言われることです。多くの方が期待してくださっているのはとっても嬉しいことには違いないのですが、「いつまだはよ」と常に思っているのは誰でもない私たち自身であって、実は日々その焦りとの戦いなのです。

ですが、そもそも私たちは幼いこどもたちを抱えて、「ここだ!」と心を込められる土地を買って、建てて、事業をはじめようとしているのですから、東京で居抜きの物件を借りてお店をはじめるのと同じスピード感で事を進めようとするほうが、間違っているといえるわけです。

それはわかっていても、やはり焦るうえに、煽られてさらに焦って空回りしたりもするんですよね。よくよく考えれば、ちょっと辛口な言い方ですが、「いつまだはよ」などと言われる方というのは、お店がオープンした後はきっと、「いつか、また、そのうち」と言われる方になる確率のほうが高い(笑)。

だから、私たちは今、この煽りの言葉にいかに心をざわつかせずに、煩悩を振りきって今自分がすべきことをして一歩ずつ進んで涅槃の域に達する修行中なんだと思うようにしています。

熟考すればいいものができるかと言ったら、もちろん違います。ひらめきもフィーリングも大切! ですが、今の時間があるからこそ、こうやって多くの生産者さんたちとお会いしてインスパイアされたり、すみかとなる地域の方とのご縁を深めていくことができているわけで、それは必ずや新しいお店づくりの基礎となるはずだと私は信じているので、今のこのまだ着工していない時間の新しい出会いや逡巡をとっても大切にしたいのでした。

とはいえ、金融機関の借入申請に対して、「あの書類を出してほしい、この書類を出してほしい」とバラバラバラバラ言われて、スケジュールが伸びていることは何とかしてくれよ~!と憤りがちなんですけどね(苦笑)。

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